2023年12月11日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [268]『フラット・マネジメント ―「心地いいチーム」をつくるリーダーの7つの思考』

(電通若者研究部 ワカモン 著 エムディエヌコーポレーション 2023年7月)

 

 本書は、チームをより良い形にする「フラット・マネジメント」というものを提唱し、その実践のために、これからのリーダーに求められる「7つの思考」「16のスタンス(以下、S)」「35のアクション(以下、A)」を示しています。

 「思考1:固定観念より新しい価値観」では、慣習やステレオタイプを押しつけず(S1)、自分にとっての常識は部下にとっての非常識であることを自覚する(A1)ことが重要だと書かれます。そのために、偏見や先入観(バイアス)を取り除き(A2)、押しつけではなく「すり合わせる」という意識で部下と向き合い(A3)、部下をリスペクトすること(A4)、さらに、いつまでも過去の成功体験にすがらず(S2)、「いま」と「未来」の話をし(A5)、成功ではなく失敗に目を向けよ(A6)――としています。

 「思考2:会社の都合より部下自身の『納得解』」では、会社の都合だけで人を動かそうとせず(S3)、「会社のため」よりも「部下自身のため」を考える(A7)べきだと主張します。そこで、他社でも使えるポータブルスキルを伸ばすこと(A8)、部下にとっての「納得解」を見つけ出すために(S4)、「やらされ仕事」をゼロにし(A9)、「チームの納得解」を整理すること(A10)の大切さを説いています。

 「思考3:費用対効果より時間対効果」では、若者のタイムパフォーマンス(タイパ)志向を理解(S5)して、コスパよりタイパを意識し(A11)、「効率的な作業」を重視し(A12)、アジェンダのない会議はしないこと(A13)が示されます。そのために重要なのは「習うより慣れろ」ではなく「慣れろより教えろ」であって(S6)、慣れるためには教えることが大事であり(A14)、やり方を丁寧に共有すべき(A15)としています。

 「思考4:大きなビジョンより小さなアクション」では、「伝える」だけでは伝わらないと認識し(S7)、相手とのキャッチボールが必要で(A16)、言葉とタイミングを意識すること(A17)の重要性を強調します。チームの信頼は行動で得られるため(S8)、言行不一致はNGで(A18)、「What to say(何を言うか)」より「What to do(何をするか)」を大事にせよ(A19)としています。

 「思考5:上から目線より横から目線」では、「上司だから偉い」と勘違いしないこと(S9)を説き、上下関係の呪縛を断ち切り(A20)、「感情的知性」を高めよ(A21)と戒めます。さらに、伴走者としてのスタンスで(S10)、目線を合わせた指導をし(A22)、「聞き出す」ではなく、相手が自然に話すことを「聞く」こと(A23)、部下からも学ぼうとする姿勢で(S11)、恥をかくことを恐れず(A24)、プライドを捨てて向き合うことで、得られるものは多い(A25)としています。

 「思考6:嫌われない建前より丁寧な本音」では、「心理的安全性」が高い職場を目指すべきで(S12)、チームの居心地の良さはリーダーの言動次第であり(A26)、「配慮」は必要だが「遠慮」は不要であると(A27)しています。そのためには等身大で対話するスタンスが大事で(S13)、自他尊重のコミュニケーションで(A28)、「素の自分」を見せるべき(A29)です。怒らず丁寧に叱ること(S14)が求められ、あくまで「怒る」より「叱る」ことが肝要で(A30)、その上でメンバーの良い部分を引き出すこと(A31)の重要性を説いています。

 「思考7:リッチキャリアよりサステナブルライフ」では、「人生100年時代」の視点を持ち(S15)、ワークをライフの一部とする「ワークライフ」思考で(A32)、持続可能な人生という目線で生き方を考えよ(A33)と説明していきます。また、「違い」を認め、「互いの成功」を思案するスタンスで接することが必要で(S16)、変化を恐れず(A34)、Win-Winになるバランスを取り続ける(A35)ことで、チームとして成長できるとしています、

 本書の主題であるフラット・マネジメントは、「杓子(しゃくし)定規な考え方にとらわれず、チームメンバーの一人一人と向き合いながら、その多様性を生かしてチームをより良い形に整えていく」というマネジメントの在り方を意味します。そのためには、「立場の上下」にこだわる従来のリーダー像は成り立ちません。その意味で、本書の帯にある「上司を辞めることから、はじめよう」というキャッチが印象的です。書かれていることの一つ一つはそれほど目新しいわけではないですが、そうした視点からまとめられていることで、気づきを与えてくれる本になっています。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年8月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー