戸籍上は男性で、女性として暮らす性同一性障害の50代の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷(今崎幸彦裁判長)は11日、制限を認めないとの判断を示した。経産省の対応を是認した2015年の人事院判定を違法と判断し、職員側の勝訴が確定した。
自認する性別が出生時と異なるトランスジェンダーなど性的少数者の職場環境の在り方を巡る最高裁の初判断で、裁判官5人の全員一致による結論。いずれも補足意見を付け、今崎裁判長は判決について、不特定多数が利用する公共施設のトイレなどを想定した判断ではないと強調し、そうした問題は改めて議論されるべきだと説明した。今回と同様に人間関係が限られる企業や学校などでは性的少数者のトイレ使用の対応に影響する可能性がある。
判決によると、職員は入省後に性同一性障害との診断を受けた。健康上の理由から性別適合手術は受けていない。長年、女性ホルモンの投与を受け、10年から許可を得て女性の身なりで勤務を始めたが、女性用トイレについては勤務先のフロアから上下2階以上離れた場所での使用しか認められなかった。
第3小法廷はこれらの個別事情や職場でのトラブルもなかった状況などを考慮し「職員は自認する性と異なる男性用か、離れたフロアの女性用トイレしか使えず、日常的に不利益を受けている」と指摘。使用制限に関する人事院判定は「職員の具体的事情を踏まえることなく同僚らへの配慮を過度に重視しており、著しく妥当性を欠く」と結論付けた。
職員は制限を不服として人事院に行政措置要求を申し立てたが、15年に退けられていた。
一、二審では自認する性別に即した社会生活を送ることをいずれも「重要な法的利益」と位置付けたが、トイレの使用制限に対する結論は分かれた。19年の東京地裁判決が使用制限は正当化できず違法だと指摘したのに対し、21年の東京高裁判決は「他の職員の性的な不安などを考慮し、全職員にとって適切な職場環境をつくる責任を果たすための対応だった」として適法と判断していた。
(共同通信社)