55歳で博報堂を退職し、音楽評論家として活躍している著者による本書では、「無駄なく・無理なく・機嫌よく」働くことが会社員生活を楽しいものとし、それによっていい仕事ができ、さらに「幸福な退職」につながるとして、そのための仕事術を9章にわたって展開しています。
第1章は「精神論」です。ここでは、「2枚目の名刺」を持つこと、「定時に帰る」こと、「65点主義」でいくことなどを推奨しています。「2枚目の名刺」を持つとは、本業に身も心も捧げてしまってはならないということです。「定時に帰る」とは、ダラダラ仕事しないということです。“絶対に定時に帰る”と心に誓い、「明日できることは今日しない」ことが必要だとしています。
「65点主義」とは、仕事において1時間で65点までアウトプットできても、100点満点を目指すと4時間かかるのであれば、「仕事なんて65点でいいんだ」と考えて、4時間あるなら65点の仕事を四つこなしたほうが、65点×4時間=260点で100点の2.6倍の仕事量になる――という考え方です(分かりやすい!)。
第2章は「時間論」です。定時に退社するには時間を「濃縮」する必要があり、その最大の敵は、会議であるとしています。会議参加者が5人いたとして、その中の1人が10分遅刻すれば、5人×10分=50分の損失になり、逆に、たった10分でも時間をかけてアイデアを考えてくれば、5人×10分=50分の事前アイデア群から会議が始められるという、「5×10の法則」が紹介されています(「定時からビールを飲むための戦い」という表現が面白い)。
第3章は「後輩論」です。先輩・後輩関係を“プレイ”として捉え、生き抜くための「後輩プレイ」を身に付けるとともに、一つの仕事に「スプーン1杯の自己顕示欲」をまぶせ、としています。また、上司に悩まされた時は、仲間と「被害」を共有し、相対化(パロディ化)することが大事だとも述べています。
第4章は「管理職論」です。これからの管理職には、部下における「MMK」(無駄なく・無理なく・機嫌よく)も実現する、「クリエイティブなマネジメント」が求められるのではないかとしています。
第5章は「連絡論」で、正しく、分かりやすく、「大人っぽく」伝えるコミュニケーション方法や、具体的なメール作法を説いています。第6章は「企画書論」で、分かりやすい企画書の書き方、作り方を指南しています。第7章は「会議論」で、会議でどのような会話が有効かを論じています(「ですよね力」という表現がシンプル)。第8章は「プレゼン論」で、プレゼンを成功させるコツを解説しています。
そして第9章が「退職論」です。自身の経験を振り返りながら、「幸福な退職」をするにはどうすればよいか考察し、やはり、そのためには「無駄なく・無理なく・機嫌よく」(MMK)を、会社での日々の仕事で実践し続けるべきであるとしています。さらに終章として、かつての電通の「鬼十訓」をもじった「カニ十足」として、これまで述べてきたことのポイントがキャッチコピー的に10にまとめられており、本書の理解・整理の助けになります。
実体験に基づいて書かれていて、幅広い層にとって面白く読めるのではないでしょうか。タイトルからキャリア論が主要テーマかと思いましたが、読んでみると、「MMK」をベースとした仕事術の話(テクニカル要素)のほうが多かったです。ただし、「幸福な退職」ができるよう、その日に向けて「MMK」を実践するという発想であるため、本書の枠組み自体が一つのキャリア論になっているようにも思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年6月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー