2023年06月09日掲載

BOOK REVIEW - 『定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考』

石山恒貴 著
法政大学大学院政策創造研究科 教授 
新書判/240ページ/860円+税/光文社新書 

BOOK REVIEW  ―人事パーソンへオススメの新刊

■ シニアの働き方について、悲観的な捉え方をされることも多い。実際に、エイジズムに基づくネガティブな内容のネット記事が溢れている状況だ。しかし、年齢と幸福感の関係は40代後半で底を打つ「U字型カーブ」になるという心理学の研究結果があり、加齢にまつわる悲観的なイメージとの矛盾、つまり「エイジング・パラドックス」が存在すると著者は言う。

■ 「加齢により能力が衰える」とみなす周囲の無意識の偏見と、シニア自身がそう思い込んでしまうことが、シニアの働き方に悪影響をもたらしていると著者は指摘する。それに対処する上で、シニアには「働き方の思考法」が重要になる。本書の第3章では、思考法を考える上でヒントになる理論として「社会情動的選択理論」と「選択最適化補償理論」を示し、この両理論からエイジング・パラドックスを説明する。続く第4章では、従業員が職務を主体的に再定義する「ジョブ・クラフティング」の考え方を両理論に組み合わせると、シニアが自身のやりたいことを大切にする姿勢への転換を促すとともに、定年後の働き方をより充実させることができると説く。

■ 本書の後半では、シニアが第一線で活躍する企業の事例を挙げながら、定年制度そのものの見直しや、さまざまな働き方を組み合わせる「モザイク型就労」を検討する。また、勤め先という“ホーム”を離れた活動で学びを得る「越境学習」も取り上げた上で、人の一生において、現役世代の次段階に当たる「サードエイジ」を幸福に生きる思考法に迫る。誰もが平等に年を取るのだから、シニアへの偏見は最終的に自分を傷つけることになる――という著者の問題提起には注目したい。シニアの能力開発の一手を知るためにも、やがて訪れる自分ごととしてシニアの働き方を考えるためにも、読んでおきたい一冊だ。

定年前と定年後の働き方 サードエイジを生きる思考

内容紹介
これからの日本社会に必要な発想。
最新の研究理論と実例から個人と組織の在り方を捉え直す。

少子高齢化と長寿化の進行は、人生100年時代と呼ばれる環境の変化をもたらした。
労働力調査によれば、2021年の労働力人口は日本の職場の3割以上が55歳以上の労働者で占められていることを示している。

だが、これまで日本ではシニアの働き方に対して組織側の施策に焦点があたることが多く、個人の働き方としてどのような戦略をとるべきかについて論じられてこなかった。
また「定年後の生き方」を解説するものは多いが、継続して働き続ける方法を解説したものは少ない。

「定年前と定年後」をどう働くのか――。ここでの働き方に「人生でもっとも充実した幸福な時期を実現する可能性がある」と説く著者による、これまでにない一冊。