本書では、エンゲージメントは人的資本経営のキーファクターであり、エンゲージメントが高い組織は、優秀な人材を惹きつけ、人材の流出を防ぐとした上で、ではどうすれば従業員のエンゲージメントが高い会社を創ることができるかを説いています。
第1章では、現在の人事・組織マネジメント手法の代表といえるMBO(目標管理)は、ワークエンゲージメントに対してマイナスに作用するという問題点を抱えており、MBOはその歴史的使命を終えたとしています。そして、新たな「パフォーマンスマネジメント」のコンポーネントとして、①OKR、②バリュー、③1on1、④360度フィードバック、⑤エンゲージメントサーベイを挙げています。
第2章では、OKRについて解説し、OKRは一人ひとりの「これをやりたい」という主体的な意志の下に立てられた目標を、測定可能な指標と組み合わせるものであるとしています。また、OKRでは達成度を評価しないため、「アンビシャス(野心的)」な目標を立てることができるなど、MBOとは異なるその特徴を解説しています。
第3章では、1on1について解説し、1on1はパフォーマンスマネジメントの土台であり、その目的は、ワークエンゲージメントの向上にあるとしています。また、1on1における支援策として、メンバーへの理解・承認、目標設定支援、経験学習支援、キャリア開発支援の四つを挙げ、それぞれ解説しています。
第4章では、評価とフィードバックについて述べています。まず「ノーレイティング」とは何か、レイティング(格付け評価)なしでどう処遇を決めるかを解説し、さらに、「360度フィードバック」の意義や、OKRと360度フィードバックによるバリューの浸透方法(バリューの実践度を評価基準とする)、360度フィードバックの導入方法について説明しています。
第5章では、キャリア自立の促進策として、人材開発会議やジョブポスティングについて紹介し、キャリア研修の在り方について述べています。第6章では、エンゲージメントサーベイについてその必須条件などを解説し、第7章では、変革マネジメントによる組織開発について述べています。
著者の『人事評価はもういらない』(2016年/ファーストプレス)、『1on1マネジメント』(2018年/ファーストプレス)に続く本であり、1on1を中心に解説した前著などに比べると、OKRや360度フィードバック、エンゲージメントサーベイなども加わって、「パフォーマンスマネジメント」をより広角的に捉える内容となっています。
一方で、全体として体系的によくまとまっているものの、概念的・抽象的なレベルにとどまっている部分も多かったという前著までの特徴が、今回より色濃くなった印象も受けました(実務感がやや希薄か)。それでも、従来の固定観念を払拭し、新たな発想に至るための示唆を得ることはできる本であると思います。
<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年5月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー