2023年08月21日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [260]『心理的安全性がつくりだす組織の未来―アメリカ発の心理的安全性を日本流に転換せよ』

(仁科雅朋 著  産業能率大学出版部 2023年3月)

 

 本書は、近年、日本でも注目されているアメリカ発の心理的安全性について、欧米と日本の文化の違いを見極め、両者の良い点を組み合わせて心理的安全性を阻む固定観念を打破して効果的に日本流に転換し、企業や組織、個人が心理的安全性を実践する方法を示したものであるとのことです。

 第1章では、エイミー・C・エドモンドソンの『恐れのない組織』を俯瞰(ふかん)し、心理的安全性とは「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことであるとしています。そして、心理的安全性の高い組織を作るためには、「自分らしくある」というオーセンティック・リーダーシップが有効であるとしています。

 第2章では、欧米の産業発展の歴史と背景を、フレデリック・W・テーラーの科学的管理法、ヘンリー・フォードのフォード・システム、エルトン・メイヨーの「ホーソン実験」などを中心に振り返っています。そして、欧米の影響を受けて独自の強みを発揮してきた日本的経営の根底には「家族主義」があったとし、それがバブル崩壊後、失われた30年が経過し、日本的経営も崩れ、Z世代の出現などにより、どの組織も時代に合った変革が求められているとしています。

 第3章では、日本人の精神文化は、ルース・ベネディクトの『菊と刀』に代表される“恥の文化”であり、応分の場の中での役割を逸脱した行為を恥ずかしく感じる文化であるとしています。一方、アメリカの精神文化は、キリスト教を根底にした“罪の文化”であり、この日米の違いは、「恩」と「愛」という精神性の違いとなって現れるとしています。そして、日本人はその「恩と恥と義理」という精神性のため、役割(仕える人)が変わればその人に従うという二面性を有するとしています。

 第4章では、日本における心理的安全性の高い組織の作り方として、透明性、ノンジャッジメント、操作主義に陥らないこと、フィードバック力を鍛えることなどを提唱するとともに、心理的に安全な会議を行うための具体的な方法を解説しています。また、第5章では、自分自身の心理的安全性の高め方として、これから日本でも広まっていくであろう「マインドフルネス瞑想法」について、その意味と手法を掘り下げています。

 第6章では、著者自身のコンサルティング経験から、心理的安全性を高めた組織変革事例を四つ紹介しています。第7章では、どのようにして心理的安全性を高めたかを4人の中堅企業の経営者に対してインタビューし、日本の組織の閉塞感を打破するために何が必要かを聞き出しています。最終章では、心理的安全性の先にある未来についての著者の考えが述べられています。

 第1章・第2章が「心理的安全性の基礎」と「欧米の産業発展史と日本的経営の特性」編、第3章・第4章が「日本人の精神文化」とそれを基にした「日本における心理的安全性の高い組織の作り方」編、第6章・第7章が、日本での「心理的安全性を高めた事例」編といった構成といえますが、この精神文化論から入って具体的な方法論にいく流れが、非常に説得力があり、分かりよいものであったと思います。

 心理的安全性について理解を深めるだけでなく、それを組織の成長につなげるための実践的な方法を探る上で示唆に富む内容であり、組織の在り方や個人の働き方を再考する上でも参考になる本でした。お薦めします。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年4月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー