2023年07月10日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [257]『DEEP PURPOSE―傑出する企業、その心と魂』

(ランジェイ・グラティ 著  山形浩生 訳 東洋館出版社 2023年2月)

 

 本書では、「ディープ・パーパス(深層的なパーパス)」という概念を提唱しています。パーパスは、その会社の従業員、顧客、パートナー、株主などあらゆるステークホルダーをまとめるビジョンをつくり、倫理的な行動を動かし、文化の強力な原動力となり、組織内に一貫性ある意思決定の枠組みを提供し、最終的には、会社の長期的な収益を維持するのに役立つとしています。

 ただし、パーパスには「表層的なパーパス」と「深層的なパーパス」があり、両者は異なるとしています。本書でいうパーパスは深層的なパーパスであり、それは、経営者が中心となり、経営者と社員が長い時間をかけて真剣に検討し何度も議論する中で生まれてくるものであるとしています。

 最初の3章は、ディープ・パーパス・リーダーのパーパスについての考え方を示しています。第1章では、多くのリーダーは、パーパスを機能または道具として考えツールだと思いがちだが、ディープ・パーパス・リーダーは、それをより根源的な企業の存在理由そのものを表現するものと考えるとしています。

 第2章では、ディープ・パーパス・リーダーは、企業の商業主義と社会倫理とのトレードオフの調整に取り組み、ステークホルダー間の利害を調整して、時には彼らが短期的には「不満足」と思うが、やがて万人に利益をもたらすつらい決断をすることもあるとしています。
 第3章では、ディープ・パーパス・リーダーは企業の成長を導くレバーとして、①戦略立案、②顧客との関係構築、③外部ステークスホルダーへの対応、④従業員の啓発、の四つを重視するとしています。

 第4章から第7章では、存在理由を定義して企業に根づかせ、それが本当に業績改善に寄与するよう、リーダーたちが実施すべき鍵となるアクションを検討しています。第4章では、ディープ・パーパス・リーダーは過去を振り返り、創業者や初期の従業員たちの意図に入り込んで、そこにある企業の不滅の魂や本質を捉えるため、結果的に感情的なつながりが深まって、存在理由への献身が高まるとしています。

 第5章では、ディープ・パーパス・リーダーがパーパスを伝える際には、壮大な基盤となる物語を語り、会社に深みと意義と、詩情さえももたらすとしています。第6章では、ディープ・パーパス・リーダーは、組織のパーパスをチームメンバーの個人的な発展と成長に結びつけ、内在的動機に火をつけ、高水準の献身と業績を実現するとしています。第7章では、パーパスを深く追求するリーダーは、伝統的な官僚主義的やり方を破壊し、自社をイノベーション、アジャイル性、成長に向かわせようとするとしています。

 最後に、第8章で、パーパスを次第に空疎化させてしまういくつかの(わな)を述べ、ディープ・パーパス・リーダーが会社を正しい方向に維持するために使う手法を紹介しています。また、エピローグとして、ディープ・パーパスの心構えをリーダーシップ行動に翻訳するとどうなるかを、「こんなアクションを検討してみよう」として、これまで述べてきた章ごとの並びに沿ってまとめています。

 ペプシコやレゴ社など、パーパス経営を実現しているとされる18の企業例が紹介されていますが、解説では伊藤忠商事が近江商人の「三方よし」の精神を企業理念に掲げていることを例に挙げ、「パーパス経営は実は日本の経営観に近い」とあり、このことを念頭に置くと、身近な印象を抱きながら読み進めることができるのではないかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年3月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー