賃上げ5%、労使隔たり 物価高対応では目線そろう

 労使のトップ会談で事実上スタートした2023年春闘は、急速な物価高への対応で経団連、連合の目線がそろった。しかし肝心の賃上げ水準を巡っては、5%程度の高いボールを投げる労組側と、景気の先行きを見極めたい経営側の隔たりが大きく、今後の交渉は曲折も予想される。

 ▽正念場

 「この春闘は正念場。今までの延長線上で話されては困る」。顕著な物価上昇を受け、連合のある幹部は高水準の賃上げの必要性を強調する。芳野友子会長も「(労働者が)新型コロナウイルス禍、円安、物価高の三重苦に置かれている」と指摘する。

 連合の相談窓口には切実な声が寄せられている。香川県の運輸業の40代男性は「会社が赤字で日当を下げられ、1日1食の状態。もう首が回らない」。千葉県の50代パート女性は「最低賃金のまま上がらず、このままでは生活ができない」と訴える。

 流通や小売業界でつくる産業別労組の幹部は、これまで長引く不況下で経営の厳しさを考慮して、賃上げより雇用維持を重んじてきた労組側にも問題があると自省する。この間に労組離れが進み、厚生労働省によると組織率は16%まで下落。連合側には物価高を逆手にとって存在感を高め「反転攻勢に出たい」との思惑も透ける。

 ▽けん制球

 昨年12月に示した春闘方針で「賃金も物価も安定的に上昇する経済へとステージの転換が必要」とした連合に対し、経団連も今月公表した指針となる報告書で「物価上昇への対応が社会的に求められていることは十分認識」と呼応して見せた。

 経団連の十倉雅和会長は23日のトップ会談後に「物価高で生活水準を上げるにはベースアップ(ベア)が必要だ」と強調。生鮮食品を除いた消費者物価の上昇率が4%台に達する中、コナミグループが3月から月5万円の基本給引き上げを実施するなど、基本給を一律にアップするベアへの機運は大企業で高まりつつある。

 だが具体的な賃上げ率となると話は別だ。連合はベアと定期昇給を合わせ5%程度の賃上げを求めるが、経団連は近年の交渉結果と比較して「大きく乖離している」とけん制球を投げる。

 世界銀行は10日に示した世界経済見通しで、日本、米国、ユーロ圏、中国の23年の成長率予測をことごとく下方修正した。企業に業績悪化のリスクがちらつく中で「見切り発車」で大幅な賃上げに踏み切ることをためらう企業は少なくない。

 民間エコノミストによる23年春闘の賃上げ率の予測値は、16日時点で平均2・85%。実現すれば26年ぶりの高さだが、それでも急激な物価高には追いつけない。ある金属メーカー系の労組幹部は「高い賃上げ率であっても、それを超えて物価が上がるのではかなわない」と不満を漏らした。

(共同通信社)