2022年11月24日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第6回 ジョブ・カードのデジタル化で、生涯を通じたキャリア形成、学び・学び直しを支援

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.Webサイト「マイジョブ・カード」公開

 10月26日、Webサイト「マイジョブ・カード」が公開された。「マイジョブ・カード」と言われても何のことか分からないし、そもそもジョブ・カード自体、何なのか知らないという人も多いかもしれない※1
 ジョブ・カードは、政府が推し進める「生涯を通じたキャリア・プランニング」のツールであり、「職業能力証明のツール」である。より分かりやすい言い方をすれば、「人生100年時代に、キャリアを考え、学び続けるためのお役立ちツール」ということになるだろう。「マイジョブ・カード」の公開により、このジョブ・カードをオンライン上で簡単に作成・管理できるようになった。

※1 厚生労働省の「令和3年 能力開発基本調査」によると、ジョブ・カードの認知状況は「内容を含めて知っており活用している」という事業所は2.2%、「内容を含めて知っているが活用していない」が23.1%、「名称(言葉)は聞いたことがあるが内容は知らない」が42.3%、「名称(言葉)を聞いたことがなく、内容も知らない」が32.1%と、内容を知らない事業所が多い。

2.ジョブ・カードとは

 ジョブ・カード制度がスタートしたのは、2008(平成20)年4月である。そもそもは、非正規労働者など職業能力を伸ばす機会に恵まれない者をターゲットに、実践的な職業訓練とセットでキャリアコンサルティングを行うことによって、職業訓練で身に付けた知識・スキルなどを客観的に記載し、安定雇用につなげようというものであった。
 履歴書や職務経歴書を書く際、職歴や資格は書きやすいが、職業訓練などは書きにくい。訓練中に頑張ったとしてもそれを分かってもらいにくい。インターンシップ、自己啓発にも同様のところがある。こうした履歴書などに書きにくい職業能力や「学び」をきちんと示し、役立ててもらおうという考えがあった。
 その後、職業能力を伸ばす機会に恵まれない者だけでなく、求職者、在職者、学生などにも活用してもらおう、より幅広い場面で活用してもらおうと見直しが行われ、2015(平成27)年の職業能力開発促進法の改正により、国はジョブ・カードの普及・促進に努めることとされた※2。新ジョブ・カード制度に移行し、「様式1 キャリア・プランシート」「様式2 職務経歴シート」「様式3 職業能力証明シート」からなる新たな様式も定められた。様式1には、就業経験がある方用と、就業経験のない方、学卒者等用がある。様式3は、免許・資格シート、学習歴・訓練歴シート、訓練成果・実務成果シートからなる。キャリア・プランを作成するための補助シートも用意された。ニーズに合わせて様式を編集できるようにしたり、職業能力証明機能を強化したりするなど工夫も重ねられてきた。

※2 職業能力開発促進法15条の4には「職務経歴等記録書」と記載されている。

3.Webサイト「マイジョブ・カード」(ジョブ・カードのオンライン化)で何ができるか

 その一方で、ジョブ・カードには、個人情報の塊のようなものをどう管理するのか、キャリアの情報をどう蓄積していくのかといった課題もあった。当初は手書きだったジョブ・カードは、その後パソコンで作成できるようになったが、内容の更新なども含めた管理の問題は、その後も残った。もともとキャリアコンサルティングとセットで考えられていたこともあって、本人とのキャリアコンサルティングの後でキャリアコンサルタントがシートにどう追記するのかという問題もあった。
 デジタル化され、オンライン上でジョブ・カードを作成・管理・更新できるようになった※3ことにより、上記のような問題はなくなり、履歴書や職務経歴書を簡単に作成できるようになった。履歴書や職務経歴書の自動作成もできるし、「お知らせメール」の受け取りを設定することにより、キャリア形成に役立つ情報を取得することも可能となった※4

※3 より具体的に言えば、アカウント登録を行うことにより、オンライン上でジョブ・カードを作成・保存・更新できるようになった。なお、アカウント登録を行わなくとも、マイジョブ・カードの作成は可能である

※4 このほかマイナポータル経由でもシングルサインインで利用できる。

[図表]「マイジョブ・カード」の概要

資料出所:厚生労働省「ウェブサイト「マイジョブ・カード」を本日公開しました」(2022年10月26日)別添資料2

 確かに便利だが、このようなサービスは、今やごく当たり前のものだ、との見方もある。厳しい見方をすれば、「やっと追いついた感」もあるかもしれないが、「マイジョブ・カード」が連携するシステム、それにより提供できる情報の質や量には目を見張るものがある。
 例えば、ハローワークインターネットサービスに登録した求職情報を使って、ジョブ・カードを作成することができる。逆に、マイジョブ・カードで作成したジョブ・カード情報を使ってハローワークインターネットサービスで求職登録することもできるようになっている。また、job tag(職業情報提供サイト[日本版O-NET])と連携したことにより、約500種類の職業について、職務の内容、入職経路、労働条件の特徴や、その職業で働いている人たちの「しごと能力プロフィール」(スキル、知識、仕事に対する興味、仕事に対する価値観など)などを参照しながら、自分のキャリアを分析したり、能力・スキルを評価したりすることもできる。

4.在職者や企業関係者にとってのジョブ・カード

 「マイジョブ・カード」は、学生や求職者だけでなく、在職者、学校関係者、企業関係者、キャリアコンサルティング関係者なども対象としている。
 ジョブ・カードには応募書類のイメージがあるかもしれないが、転職を希望していない在職者向けにも有用である。「マイジョブ・カード」では、在職者は、実務上で得た職業能力を「見える化」した上、今後のキャリア・プランをイメージし、その実現のために取り組むべきこと(例えば学び直し)を明確にし、キャリアの変化に的確に対応することができるとして活用を提案している。また、企業関係者には採用から人材育成、人事評価、適正配置など、人事のさまざまな場面で活用することを提案している。
 2020(令和2)年4月からは、労働者のキャリア・プランニングや企業内でのキャリアコンサルティング機会の導入などを支援する「キャリア形成サポートセンター」が設置されている。

 キャリアは、かつてからは考えられないほど長くなった。その間に求められる知識・スキルも変わる。節目ごとにキャリアの棚卸しをし、世の中の変化を踏まえ、学び続けることが必要だ。そのためには、職場と学び直しの方向性や目標を共有することも重要となる。時には、キャリアコンサルタントなど専門家の支援を得ることも有効と考えられる。それには何らかのツールが必要である。必ずしもジョブ・カードでなければいけないわけではないが、「マイジョブ・カード」では、オンライン上でジョブ・カードを作成・管理・更新できるほか、関連サイトとの連携、企業などにおける活用事例なども紹介されている。ニーズに合わせて、必要な機能だけを使うこともできる。学び・学び直しの方向性などを考えていく上で、活用できることがないか、サイトにアクセスしてみてはいかがだろうか。

【参考文献】

・浅野浩美(2022)『キャリアコンサルタント・人事パーソンのための キャリアコンサルティング 組織で働く人のキャリア形成を支援する』労務行政

・厚生労働省「マイジョブ・カード」

・厚生労働省「ウェブサイト「マイジョブ・カード」を本日公開しました」(2022年10月26日)

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会理事、人材育成学会理事、経営情報学会理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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