2022年10月14日掲載

Point of view - 第214回 箕浦龍一 ―「ワーケーション」から考える「働く」のこれから

箕浦龍一 みのうら りゅういち
一般社団法人日本ワーケーション協会 特別顧問
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム 理事

元総務省職員。退職・独立後はフリーランスのコンサルタントとして、働き方改革や組織開発・組織文化変革、ワーケーション、DX、若手公務員の人材育成等の分野で活動中。
総務省時代には、オフィス改革や働き方改革に取り組み、2018年の人事院総裁賞を受賞し、天皇皇后両陛下に拝謁(はいえつ)。基礎自治体(市町村)と総務省との短期交換留学など、さまざまな企画を実行し、2017年の日本行政学会では、「機動力の高いナポレオン型管理職」として紹介。

ワーケーション~「働き方」の一つの進化形

 新型コロナウイルス感染症の大流行によって、わが国の旧態依然とした働き方やビジネスの形に激変が生じた。従来、テレワークは困難としていた多くの企業でも、感染回避のための出勤抑制措置が求められ、多くの組織やワーカーがテレワークを経験することとなった。その結果、多少の不都合はあるものの、仕事の相当部分はテレワークによっても対応できるとの認識を持つようになった関係者も多いのではないだろうか。
 また、一時的には原則「出社」に回帰する動きも見られるものの、人口減少に伴う労働力不足により優秀な専門人材を複業・リモートで活用せざるを得なくなる今後の雇用動向を考慮すれば、オンライン会議や社外からのリモートワークの活用など、感染症収束後もDXを前提とした働き方の潮流はさらに進むと考えられる。つまり、現在生じている働き方の変化は、感染症による足元の動きと捉えるべきではなく、DXの一環として生じている不可逆的な変化と理解すべきなのである。
 一方、感染回避のために都道府県域を越える旅行が制限されたことによって、観光地を擁する全国の各地域の経済にも深刻な打撃が及んだが、最近注目される「ワーケーション」は、感染症流行以前から、先進的な地域において既に取り組みが進められていた。これはICTの進歩によってリモートでの仕事が可能であることに早くから注目した先進的な地域と、先見性のある企業やワーカーの動きではあったが、そこには、これからの「働き方」を理解するための大事な視点があることを見落としてはならない。

人にとっての「働き方」はどう変化しているか

 「ワーケーション」のアーリーアダプター(イノベーター理論における初期採用者)たちは、所属企業の業務を、オフィスでも自宅でも都会のコワーキングスペースでもない第四の場所として、「自分の好きな地域」「自分の好きな仲間と会える場所」で、リモートで行うことを選択した。その目的はさまざまであり、中には仕事の傍ら観光を楽しむという素朴な形も多く見られる一方、リラックスできる環境や集中できる環境の中で生産性の高いアウトプットにつなげる、あるいは地域や仲間たちとの交流による有意義な人脈形成、自身の成長につなげようという意図も見られた。
 つまり、「場所にとらわれない働き方」が可能になったという「働く場所のDX」という変化が、このような動きを可能とした。このことにより、自分にとって「望ましい場所」「好ましい場所」で働くことを選択することで、ワーカー自身のウェルビーイングの実現も注目されている。
 さらには、所属企業や与えられたオフィスを離れて、アウェイな環境の中での非日常体験や他業種・他地域の人々との交流による「異なる価値観との交錯」を通じた「越境学習」「複線的人材開発」にも注目すべきであろう。人材の成長のためには、所属組織による研修やOJTが従来は重視されてきたが、「VUCA」(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)といわれる時代において、同一組織内での単線的で同属的な学びには飽き足らず、自身のキャリアアップを自律的・主体的に捉えて、組織の外との関係性の中で複線的な学びやインプットを求める人材が増えてきている。ワーケーションは、そのような人材にとって、絶好の成長の機会と認識されているのではないだろうか。

「働く」に関わるさまざまなことが問い直されている

 人にとって「働く」とは、「価値」を創造し提供することによって金銭的対価を得る営みである。とすると、「組織で働く」ことは、人々が集まり「コラボレート」することで「価値」を生み出す活動と考えることもできよう。
 そう考えた場合、改めて振り返って、従来のオフィスでは、社員が集うだけの価値のある「コラボレート」が行われていただろうか。マネジメントやコミュニケーションが難しいとの声も聞かれる在宅勤務であるが、今後、DXによって対面とオンラインとのハイブリッドワークが標準となっていく中で、ハイブリッド時代の「コラボレーション」の在り方が問い直されているのではなかろうか。
 組織内においては、垂直的なコラボレーションだけでなく、縦割りになりがちだった部門間のコラボレーションを活性化していくことが必要だ。それ以上に、平成の中盤以降注目されてきた「オープン・イノベーション」に見られるように、自社に存在しない発想や技術との交流・共創を進めていくニーズは今後ますます高まっていくであろう。
 ハイブリッド時代に、企業が「コラボレーション」のために用意すべき「働く場」は、従来のオフィス(点)で考えるのではなく、在宅勤務やワーケーションなどリモートも含めたバーチャルな面として捉えるべきではなかろうか。
 また、ワーカーや投資家から選ばれる企業であるためには、組織および社員個人のウェルビーイングを実現していくことも不可避である。大都市圏においては「満員電車で通勤しない選択肢」を社員に与えることも必要であろうし、これに限らず、社員が自分にとって好ましい環境で働く選択肢を用意することが、これからの企業にとっては課題となろう。
 自律自走型人材を開発し育てるためにも、組織を超えた越境学習による異なる価値観との交錯の機会を社員に対しても提供していくことが重要となっていく。
 ワーケーションは、社外とのコラボレーションを生み出し、深め、社員のウェルビーイングを高め、自律自走型人材を育てる手段でもある。企業こそ、その価値にもっと注目し、積極的に社員を関わらせることが必要なのではなかろうか。