2023年01月10日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [245]『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)―「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』

(ユベール・ジョリー/キャロライン・ランバート 著 樋口武志 訳 英治出版 2022年7月)

 

 「人」を大事にする、「パーパス」を大切にするといったことは最近よく聞かれますが、本書は、米国の家電大手ベスト・バイの元CEOが、企業経営がどん底の中、リストラでも事業縮小でもインセンティブでもなく、目の前の人とパーパスでつながることを選んで会社を立て直したという自身の実体験を基に、これからの時代のリーダーシップについて述べたものです。本書では、人々の深いつながりとパーパスを基軸に経営することが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)であると述べています。

 第1部(第1章~第3章)では、人にとっての仕事の意味について考察しています。仕事を生きる意味の探究の一部であると捉えることで、経営者と従業員の関係が良くなり、ビジョンを達成できるようになるとしています。また、自分のパーパスを探りたいならば、①愛していること、②得意なこと、③世界が必要としていること、④お金を得られること、の四つの要素が重なるところに自分のパーパスがあるとしています。

 第2部(第4章~第7章)では、企業は利益ばかりに目を向けていると、顧客や従業員を敵に回すことになり、企業におけるパーパス(その企業が存在する意義)と人を重視すべきであって、「ノーブル・パーパス(大いなる存在意義)」を会社の戦略の要とし、それに沿った経営慣行を作るべきであるとしています。そして、どんなときも人から始め人が最後になるとし、人のエネルギーを生むにはどうすればよいかを説いています。

 第3部(第8章~第13章)では、時代遅れとなった「アメとムチ」による経営手法に代わるアプローチの鍵となるものを「ヒューマン・マジック(人に備わる魔法のような力)」と呼び、経営者が以下の五つの要素を意識し従業員への接し方を変えることで、彼らの働き方が変わるとしています。

①個人の夢と会社のパーパスを結びつける

②人と人とのつながりを育む

③自律性を育む

④マスタリー(熟達)を追究する

⑤追い風に乗る(成長できる環境を作る)

 第4部(第14章~第15章)では、パーパスフルなリーダーになるために大切なことを挙げ、パーパスフル・リーダーの五つの「あり方」として、以下を挙げています。

①自分と周囲の人々のパーパスを理解し、それらと企業のパーパスの結びつきを明確にする

②リーダーとしての役割を明確にする

③誰に仕えているかを明確にする

④価値観を原動力にする

⑤偽りのない自分になる

 本書は、経営者自らがパーパスについて語った最初の本であるとのことです。個人的には、一人ひとりにとってのパーパスというものを、企業にとってのノーブル・パーパスに敷衍(ふえん)している点が興味深かったです。

 具体的には取り立てて目新しいことが書かれているわけではありませんが、リーダーは完璧である必要はなく、リーダーにとって重要なのは自分らしくあること。また、最善を求めて努力し続け、周りの人とコミュケーションを取り、組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけ、彼らがのびのびと働ける環境づくりをすることこそが求められるということを、改めて教えてくれる本でした。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年9月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー