組織心理学者による本書では、人は自らの思い込みを捨てて考え直すことが苦手だが、考えを見直すことは、思考の柔軟性を取り戻し、正しい判断を促すとして、その原理と対処法を紹介しています。
Part 1では、私たちの思考様式は、考えたり、話をしたりするとき、無意識に三つの職業の思考モードに切り替わり、その三つとは、「牧師」(理想を守り確固としたものにするために説教する)、「検察官」(相手の間違いを明らかにするために論拠を並べる)、「政治家」(支持層の是認を獲得するためにキャンペーンやロビー活動を行う)であるとしています。
そして、それらとは別に私たちが持つべきは、自分の知っていることを疑い、知らないことを深掘りする「科学者」の思考モードであり、真実を追求するとき、私たちは科学者の思考モードに入り、仮説を検証するために実験を行い、新しい知識を発見するとしています(Chapter1)。
さらに、私たちが手に入れるべきは、バランスの取れた自信と謙虚さであり、自己の能力を信じながら、自分が正しくない可能性、あるいは問題自体を正しく理解していない可能性を認めることで、既存の知識を再評価し、新しい見識を追い求めることができるとしています(Chapter2)。
そして、「自分の間違い」を発見することは喜びであり、「愚かなこだわり」から自由になるには、個人的感情に流されず、固定観念を捨て、「外から入ってくる情報」に心を開くことであり、「ミスを潔く認める人」ほど評価が上がるとしています(Chapter3)。
また、「熱い論戦」(グッド・ファイト)は怖れてはならず、「対立を避けてしまう心理」が革新を妨げるとし、「挑戦的なネットワーク」(耳の痛い意見)は避けるべきではなく、意見が合わないときは、感情に流されず「理性的に反論」できるかがカギになるとしています(Chapter4)。
Part 2では、相手に再考を促す方法を説いています。まず。議論の場で相手の心を動かすには、相手を「敵」と見なすのではなく「ダンスの相手」だと思うことであるとして(Chapter5)、相手の「先入観」「偏見」とどう向き合うかを説くとともに(Chapter6)、「穏やかな傾聴」こそ人の心を開くとしています(Chapter7)。
Part 3では、学び、再考し続ける社会・組織を創造する方法を説いています。分断された社会の「溝」を埋めるために「平行線の対話」を打開していくにはどうすればよいか(Chapter8)、健全な懐疑心と探究心を育み、生涯にわたり「学び続ける力」を培うにはどうすればよいか(Chapter9)、「学びの文化」を職場で醸成させ、「いつものやり方」を変革し続けるにはどうすればよいか(Chapter10)を説いています。
Part 4では、結論として、「意義ある人生」を送るために、視野を広げて自らの「人生プラン」を再考することを推奨しています(Chapter11)。
できるようでなかなかできないのが「再考」であり、自分の考えを疑うことをせず、誤った考えに気づきもしないことが多い中で、本書では「再考」することの大切さが組織論にまで落とし込んで書かれています。
仕事上の相手と意見が対立した際の対処法や、建設的な議論を通して自らの思考の質を高める方法についても書かれており、ビジネスパーソンには啓発される要素の多い本であると思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年6月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー