2022年09月27日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [238]『図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた』

(小林 傑 山田博之 野崎 洸太郎 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2022年4月)

 

 経営コンサルティングファームによる本書は、人事制度自体を俯瞰(ふかん)した上で、人材ビジョン、等級、評価、報酬という人事制度の重要な要素を統合的に説明できるような「フレームワーク」の提示を目指したものです。

 一般に、学術書であると抽象的すぎて実務で活用しにくく、一方、実務書であれば、報酬制度や評価方法など、個々の論点についてのノウハウは詳しく書いてあるものの、人事の全体像とはリンクしていないタイプのものが多い中、本書は理念と実務を統合的に説明している点が特徴であり、その点において「フレームワーク」という言い方をしているようです。

 要となるフレームワークは全体で5+1のステップで構成されており、ステップ1が「現状分析・改定の方向性」、ステップ2が「人材ビジョン・人事制度改定コンセプト」、ステップ3が「等級制度」、ステップ4が「評価制度」、ステップ5が「報酬制度」、ラストステップが「導入・運用」となっています。

 ステップ1からステップ2にかけては、人材マネジメントのあるべき姿とその企業の現状とのギャップをどのように測り、人事制度改定の判断軸をどう作っていくかを解説しています。主として理念的・概念的な内容となりますが、図解で解説し、ポイントを整理しているため、とっつきにくいという印象は緩和されていると思います。

 ステップ3からステップ5にかけて解説されている等級制度、評価制度、報酬制度については、比較的オーソドックスな解説がなされていますが、この制度しかない、これがベストであるという示し方ではなく、あくまでも制度策定のフレームとなる考え方を示すことに主眼が置かれている印象を受けました。

 ラストステップでは、「制度3割、運用7割」であるということを踏まえた上で、人事制度が活用される運用基盤をどう整えるか、制度導入説明会の注意点や評価者トレーニングの実施ポイントなどを具体的に解説しています。

 全体を通して、例えば評価制度であれば、評価制度の役割や種類、行動評価、目標管理、評価段階・ウエート等をひと通り解説した上で、制度の概要設計や詳細設計等について具体策の検討フレームを空欄で示すとともに、併せてそれぞれの記載例も示すという形をとっています。そのため、記載例を見ながら、自社の場合、検討フレームを埋めるとすればどうなるかを考えさせる、ワークブック的なつくりになっているといえます。

 現実には、人事制度改定プロジェクトのリーダーまたはメンバーにでもならない限り、なかなかこうしたことは学習したり考えたりしないものであるし、また実践の場を経ないと、こうした知識は本当に身には付かないという面はどうしてもあるかと思います。人事ビギナーには、本書の各検討フレームを埋めるのは結構ハードルが高いようにも思いました。

 ただし、人事パーソンには社内コンサルタント的な素養も求められると思われることから、こうしたコンサルティングファームの切り口や手法に触れておくのもいいのではないかと思います。それは、制度改定を内製的に実施することになった際にも役立つと思います。
 また、仮にコンサルティングファームの手を借りることになったとしても、自社最適の制度への道は自らが選択しなければならないわけです。そうしたことをイメージしながら読むといいのではないでしょうか。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2022年5月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー