公開日 2022.02.24 深瀬勝範(Fフロンティア 代表取締役・社会保険労務士)
出向起業(しゅっこうきぎょう)
大企業などに所属している人材が、所属企業を辞職しないまま、外部資金の調達や個人資産の投下などにより新会社を立ち上げて、そこに出向するなどの形式をとって新規事業を行うこと。一定期間を過ぎれば、起業した人材は、所属企業に復職するか、自ら起業した新会社に転籍して独立する。
出向起業する従業員側は「失業するリスクを極力軽減した上で、自ら立ち上げた会社で新規事業に挑戦することができる」というメリットが、一方、企業側は「既存事業に埋もれていた人材を活用して、新規事業を創出することができる」「従業員の起業・経営マインドを育成することができる」などのメリットがある。
経済産業省は、2019年度から「大企業人材等新規事業創造支援事業費補助金(中小企業新事業創出促進対策事業)」を通じて、出向起業における事業開発活動費用の一部を補助するなどの支援(出向起業等創出支援事業)を行っている。この支援を受けられる出向起業は、次の要件を満たすものとされている。
(1)新規事業創造を行うために、大企業等に所属する人材が、所属元企業以外の資本(経営者の個人資本含む)を80%以上活用して会社を設立すること(所属企業が保有する新会社の資本の比率が議決権ベースで20%未満であること)
(2)大企業等に所属する人材が、自ら設立した新会社への出向などによりフルタイムで経営者として新規事業創造に向けた実務に従事すること
(3)設立した新会社および出向等により従事する経営者に対しては、そのまま独立する、または所属企業へ戻る(買い戻される)計画・オプションが用意されていること
2022年2月現在、出向起業等創出支援事業の補助金を受けて起業された会社は23社となっている。
出向起業とは別に「スタートアップ出向」という形態もある。この場合、従業員は、在籍する企業を辞職せずに既存のスタートアップ会社に出向し、当該スタートアップ会社での勤務を通じて、そこで働くことでしか得られない経験を獲得する。なお、スタートアップ出向は、上記の補助金の支給対象とはなっていない。