2022年05月24日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [230]『なぜ、日本の職場は世界一ギスギスしているのか』

(沢渡あまね 著 SB新書 2021年12月)

 

 本書では、日本の職場は国際調査で見ると、人間関係、生産性、やりがい、満足度などの点で「世界一」ギスギスした職場とされているとした上で、どこに問題があるのか、働きやすい職場に生まれ変わるにはどうしたらよいのか、そのアイデアを提案しています。

 はじめに、日本の職場がギスギスする三つの主な要因として、①旧態依然のマネジメントや働き方、②旧態依然の職場環境、③ジェネレーションギャップを挙げ、職場のギスギスを解消させる三つのシフトとして、マインドシフト、マネジメントシフト、スキルシフトを挙げています。その上で、以下、ケースごとに職場のギスギスを生む要因を紐解き、それをどう解決していくか、三つのシフトをどう仕掛けていくかを、本文3章にわたり述べています。

 第1章では、環境によるギスギスについて取り上げています。職場環境によるギスギスとして、人が辞めていく、情報が共有できない、管理職・上司が現場を知らない、相談や提案がしにくい、誰に何を聞けばいいのか分からない、部門間の連携が取りにくい、といった六つの問題を、さらに、労働環境によるギスギスとして、公平すぎて不公平な働き方、テレワークで仕事がはかどらない、物理的環境がよくない、という三つの問題を挙げて、それぞれの原因と問題解決のヒントを示しています。

 第2章では、スキルやメンタルティによるギスギスについて取り上げています。スキルとキャリアによるギスギスとして、組織は集団主義だが行動は個人主義であること、雑用が多くてスキルが伸びないこと、日本特有の採用ミスマッチ、待遇で区別される非正規社員と働かなくても大丈夫な正社員、の四つの問題を指摘。メンタリティによるギスギスとして、新しいことへの挑戦を拒む「5教科主義」「減点評価主義」、いまだに目立つ根性論、確認が多くてイライラの部下としっかり仕事しているか不安の上司、という三つの問題を挙げて、それぞれの問題解消のためのポイントを示しています。

 第3章では、制度によるギスギスについて取り上げています。ここでは、毎日出社しなければいけない、条件が厳しくて働けない、自分が動いても何も変わらない、終身雇用がモチベーションを下げるといった、制度に起因する問題を取り上げ、問題解決の道筋を示唆しています。

 読んでいて、自分の職場も同じような問題を抱えていると思われる読者は多いのではないでしょうか。そうした問題の特効薬的な解決方法を示すというよりは、マインドシフト、マネジメントシフト等を通しての解決のためのアプローチを示しているように思えました。

 本の帯に「こんな職場は危険信号」とあって「コロナ禍以前と働き方が変わらない」とありますが、「テレワークで仕事がはかどらない」という問題については、テレワーク以前の仕事のプロセスに問題があるとしていて、なるほどと思いました。すごく斬新なことが書かれているわけではありませんが、自分の職場の問題点のセルフチェックにはいいかと思います。

 本文の最後で「終身雇用がモチベーションを下げる」と言い切り、企業として人材に投資する一方、成長しない人たちには厳しい人事制度に変えていくべきであるとし、終わりには、「気合・根性主義の体育会系カルチャー、そろそろおやすみなさい」とあります。これからの人事についての、自分の意識のセルフチェックにもいいかもしれません。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2022年1月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー