2021年12月24日掲載

Point of view - 第195回 中竹竜二 ―強い人やチームをつくる「組織文化」

強い人やチームをつくる「組織文化」

中竹竜二 なかたけ りゅうじ
株式会社チームボックス 代表取締役

1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。
三菱総合研究所勤務後、早稲田大学ラグビー部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年より日本ラグビー協会コーチングディレクター就任。U20日本代表ヘッドコーチも兼務し実績を残す。
2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う(株)チームボックスを設立。ほかに、(一社)スポーツコーチングJapan代表理事、(一社)日本車いすラグビー連盟 副理事長など。
著書に『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)など多数。

 あなたの会社やチームには、どんな組織文化があるだろうか? 組織文化とは、組織で働く人々が何となく共有している価値観や雰囲気、クセのこと。仕事をしている中で、「この人らしいな」と感じる言動があるのと同様に、「この会社らしいな」という場面に出くわしたことはないだろうか?
 例えば、とても真面目で言われたことは着実に実行する。お客さまのためなら長時間労働をいとわず、誠心誠意サービスを提供することが「格好いい」。新しいことを始めようとしてもすぐに結果を求められるので手を挙げることを諦めがち。――どれも組織文化を作りだしている一端である。
 組織文化に唯一正しい解はなく、常に時代とともに変化し続ける。ただし、目に見えない組織文化が組織の根底に存在していること、そしてそれは組織にいる人々が作り出しているものだということを忘れてはいけない。組織というものは、紛れもなく人の集合体でしかないのだ。社長だけの話ではなく、あなたや周りの人一人ひとりが大切なパズルのピースとしてカギを握るのだとしたら、あなたは組織文化とどう向き合うだろうか?

組織文化とは何か

 さて、組織文化には、私が"ウィニングカルチャー"と呼んでいる、目標に向け学びと成長を続ける常勝の文化もあれば、自分たちが望んでいない文化もある。誤解してほしくないのは、組織文化自体に良しあしがあるのではない。意識すべきなのは、自分たちの理想とする姿につながっているかどうか、目標を達成するための最適な文化なのかどうかだ。予測不可能なこれからの時代は、自分たちの組織文化を知り、その独自性を強めていくことが重要だ。そのためにも日頃から、自分たちの組織文化はどんなものなのかを言語化して、個々人が認識することが大事だ。
 組織文化を理解する時のポイントは、組織の中で起こった事実だけに目を向けるのではなく、起こった事実に対する組織の人の反応や態度に注目してみること。例えば、「売り上げアップ」という事実に「それができた人は格好いい」と思うなら、それも組織文化の一端だ。また、悪い時にこそ露呈するのが組織の本当の姿である。「トラブルやミスが起きた」という事実に、隠そうとするのか、正直に失敗を認めて謝ることができるのか。個人の感情と組織文化は相似関係にあるので、そういった一人ひとりの反応の集積が組織文化になっているのだ。個々人の反応を知るためにも、働いている人が感情を素直にさらけ出せる心理的安全性のある環境が欠かせない。
 組織文化の落とし穴は、何となくみんな分かっているのに可視化されづらい暗黙知であるということだ。組織をピラミッドで例えると、頂点に位置するのは、成果(利益や株価、時価総額等)だ。いちばん数値に換算しやすく目に見えやすい。次の層は、製品・サービス。その次は、行動・言葉・習慣。その下に、仕組みや制度(組織運営のルール)があって、最下層に組織文化がある。つまり組織文化は組織の土台なのだが、見えづらい。
 どれだけ人事制度を整えて、働きやすい環境を作ろうとしても、一過性のイベントで終わってしまうのはそのためだ。根底にどんな価値観があるのか、目を背けずメスを入れる必要があるかもしれない。その過程で意見がぶつかったり、嫌な部分が表出したりするため、痛みに向き合うという点で最後は覚悟があるかどうかが問われる。

組織文化の変革に取り組むには、まず自分たちを知ること

 では、組織文化の変革に取り組みたいと思った時、何から始めたらよいだろう? それは、自分たちを知ること。つまり「自分たちは何者なのか」と問い掛けてみることだ。
 具体的には二つの方法がある。一つ目は、「組織の中にいる人」が、自分たちの組織をどう思っているか、何を大事にしているかを明らかにしていくことだ。組織が最も大切にする価値観は何か? この組織の強みは何か? 成果を重視する文化なのか、それとも成長を重視するのかでは全く異なる。自分たちの視点から言語化してみよう。
 普段仕事でやりとりされるあらゆる会話や意思決定にもヒントがある。組織でよく使われる独特の表現や単語はあるか? 会議では誰がどんな発言をする傾向があるか? 仕事とは関係なく、トイレや廊下でどんな雑談がなされているか? 男女平等を掲げているのに、電話に出たり、来客にお茶を出す人の性別や役職に偏りはないだろうか。ぜひ社内の幅広い人に意見を聞いてほしい。あまり目立たないメンバーこそ組織の細部までよく見ている。普段意識して気に留めないような日常のふとした瞬間にこそ、その組織らしい文化が現れる。
 次に二つ目。自分たちでは自分の組織がなかなか分からない時には、「他者」に聞いてみよう。組織の中にいればいるほど、その環境に慣れて自分たちのことが客観的に見られなくなるものだ。会社の良いところ、悪いところは何か? この会社を身内に薦めたいか? 違う業種、業界、取引先など、いつもとは違う視点を得られる環境と比較することも効果的だ。
 組織の中ならば、新入社員や転職してきた社員に客観的に組織がどう見えるのか聞いてみるとよい。退職したメンバーからは、本音としては耳の痛いフィードバックがあるかもしれないが、ネガティブな意見こそ参考になる。「この組織に対するあなたの違和感をぜひ教えてほしい」、そう率直な意見を求めるとよいだろう。間違えても反論しないで、どんな忌憚(/rp>きたんのない意見も受けとめて、自分たちはどう行動していくべきなのか前向きに議論していこう。
 最後に、もし自分たちが望まない文化に気づいて、すぐには変わらないだろうと思っても、諦めずに根気よく問い続けることが大切だ。そもそも文化とは今日明日の問題ではなく、歴史を振り返ってみても新しく作り出されては、壊され、長い年月をかけて熟成されていくものだ。今できている、できていないと目の前のことにとらわれていても仕方ない。誰かのせいだと他責にしていても、残念ながら何も変わらない。
 常に自責で、自分には何ができるのだろうかと問い掛け、同じように課題意識を共有して共に組織と向き合っていく仲間を見つけよう。言葉にするのが怖いという思いや、声を上げることで非難されたり、変化への反対勢力が出てくることへの恐れもあるかもしれない。しかし、ウィニングカルチャーを作っていくのは、誰でもないあなたや周りのメンバーをはじめとする人であり、日々の行動の積み重ねだ。
 これまで組織に関わってきた多くの人が流した汗と涙、過去に感謝して、今、ありのままの姿を見える化し、未来への進化を遂げていけることは希望だ。そこには、新たな発見や学びが溢れている。さあ、組織文化を通じて、自分たちらしさを知る旅に出掛けよう。