2022年04月12日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [227]『ヒトデ型組織はなぜ強いのか―絶対的なリーダーをつくらない組織が未来をつくる』

(オリ・ブラフマン ロッド・A・ベックストローム 著 大川修二 訳
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2021年11月)


 

 本書では、階層的な指揮命令系統が定められている中央集権的な組織を「クモ型」、権限が分散し階層構造を持たないネットワークの総体を「ヒトデ型」とし、「ヒトデ型」を「ヒトデ型」たらしめるものは何で、「ヒトデ型」を有効に機能させる要素は何か、の解明を試みています(本書は、2007年刊行の『ヒトデはクモよりなぜ強い―21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(日経BP社)の14年ぶりの新訳となります)。

 第1章では、MGMなどのレコード会社が、ユーザーに違法なダウンロードをさせるサービス会社を排除できなかった事例を、スペイン軍がアパッチ族を制圧できなかった事例に照らして分析し、「分権型組織は攻撃を受けると、より一層開かれた状態となり、さらに分権化の度合いを強める」(第1の法則)としています。

 第2章では、インターネット登場時に初めてそれに接した人が、インターネットの社長は誰かと問うたように、「ヒトデはクモと間違えやすい」(第2の法則)ものであり、「開かれた組織では、情報は中央に集中せず、組織全体に分散している」(第3の法則)、「開かれた組織は容易に変化させられる」(第4の法則)、「分権型組織はこっそり近づいてくる」(第5の法則)、「業界内で分権化が進むと、業界全体の利益が減少する」(第6の法則)としています。

 第3章では、ウィキペディアを例に、「人は開かれたシステムの中に身を置くと、無意識のうちに貢献しようという気になる」(第7の法則)とし、第4章では、分権型組織の5本の足(基本要素)は、①サークル、②触媒、③イデオロギー、④既存のネットワーク、⑤推進者であるとし、第5章では、そのうちの「触媒」に必要なものを挙げています。第6章では、「中央集権型組織は、攻撃されると、より一層集権化する傾向にある」(第8の法則)が、これはうまくいかないとし、ヒトデによる侵略に対抗する具体的な戦略を挙げています。

 第7章では、純粋にヒトデ型でもクモ型でもない、ハイブリッド型組織というものもあり、ハイブリッド型組織には、①カスタマー・エクスペリエンス(顧客体験)を分権化させた中央集権型企業と、②中央集権型企業が事業の内部構造を分権化するというパターンの2種類があるとしています。第8章では、企業はどの部分を分権化するか、分権の「スイートスポット」を追い求めるべきだとしています。第9章では、これまでのまとめとして、今日の企業競争には新しいゲームのルールが誕生しているとして、規模の不経済、ネットワーク効果など10のルールを挙げています。

 本書では権力分散の成功例が豊富に紹介されていますが、今日において活発に活動している企業の多くは、はっきりした命令系統のある組織でありながら、サービスや経営に権限分散の要素を取り入れた「ハイブリッド型」であるとします。そして、社内で一貫性を保ち、きちんと管理するには集権型のマネジメントが必要だが、人々が創造力を発揮しやすいのは、秩序よりも柔軟性を重んじる分権型の環境であることも示唆しています。組織論に新たな視点を提供しているという意味で、一読するのもよいかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2021年12月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー