本書は、新型コロナウィルス感染症の蔓延とその対策の中で、雇用・人事はさながら「人事事変」とでも呼ぶような局面にあるとの前提に立ち、雇用・人事の「いま・ここ」を俯瞰するとともに、次世代の働き方と人材マネジメントの「これから」を予測し、そのあるべき姿を提示しようとしたものです。
第1章で、コロナ禍による強制的なリモート環境で雇用・人事がどのように変わったかを、統計や企業事例を交えて俯瞰し、第2章では、そうした今、従来の「日本型雇用」からの脱却は不可避であり、成し遂げたい目的を明示し行動する「パーバス・ドリブン経営」へのパラダイム・シフトが起きているとしています。また、「ジョブ型雇用」とは何かを説き、それを取り入れる際の留意点を挙げています。
第3章では、リモートワーク・マネジメントを機能させるためのポイントを挙げています。さらに、ジョブ型と併せて話題となる「成果主義」について、成果主義は結果主義とは異なるとする一方、導入に際しては「払拭しがたい年功意識」がその壁となるとしています。また、企業は今後、リアル・オフィスとリモートワークのベストミックスを模索していくだろうとし、それによってオフィスの役割や人々の働き方はどう変わっていくかを予測しています。
第4章では、1on1ミーティングのブームの背景を分析し、1on1ミーティングに話し合うべきテーマを挙げるとともに、「心理的安全性」の確保の重要性を説いています。また、「アジャイル(俊敏な)人事」や「リアルタイム・フィードバック」とは何かを解説し、個人の行動変革と成長を促し、組織成果を最大化する「パフォーマンス・ディベロップメント」という概念と、1on1を加味したその例を紹介しています。
第5章では、これからの時代のマネジメントとリーダーシップの在り方をテーマに、「感情的知性(EI)」を開発して仕事に活かす方法や、心理的安全性を確保して「恐れのない」組織をつくることを説いています。また、状況対応型リーダーシップなど従来型のリーダーシップ理論の活用方法に加え、リーダーはメンバーの「安全地帯」になるというセキュアベース・リーダーシップや、優れたリーダーは「謙虚」なものであるというハンブル・リーダーなど、比較的新しいリーダーシップ理論も紹介しています。
第6章では、HRM→SHRM→タレントマネジメントと変遷してきた人材マネジメントはさらに進化し、2020年代にはデータ化しにくい社員個々のソフト面に配慮した「ピープル・マネジメント」が主流を占めるようになるだろうとしています。また、コア人材の鍛え方を説くとともに、これからの社会は「企業中心社会」から「個人中心社会」になっていくだろうとしています。
タイトルに「再革新」とあるように、読んでいて、過去にもあったようなトピックが、言葉を変えて再び注目されていたりもするように思いました。言葉に振り回されるのもよくないですが、人事パーソンとして知っておくべき言葉を知らないのもどうかというのもあります。そうしたことも含め、ウィズコロナ時代の人事の現況や、アフターコロナ時代の人事の見通しを俯瞰する上で、テキスト的に手頃な本であるように思いました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2021年9月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー