2021年12月21日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [220]『事例で学ぶOJT―先輩トレーナーが実践する効果的な育て方』

(田中淳子 著 経団連出版 2021年7月)

 

 すぐにふて腐れる人にはどう対応するか?「この仕事、意味あるんですか」と言われたら? 本書は、OJTトレーナー研修に長年携わってきた著者が、マネジャーやリーダー、新入社員自身、さらにはOJTトレーナーから見聞きしたさまざまな育成事例を、「悩みのあるある」と「アドバイス」という67のQ&A形式にしてまとめたものです。

 第Ⅰ章では、OJTトレーナーの役割を説いていますが、「OJTトレーナーにふさわしい年齢はあるのか」といった問いが興味深かったです。また、OJTトレーナーにも成長目標を設定することを推奨しています。第Ⅱ章では、OJTトレーナーが周囲の協力を上手に得るにはどうすればよいかを述べるとともに、新人に残業させるかなどの方針も決めておくのがよいとしています。

 第Ⅲ章では、新入社員がうれしいこと、戸惑うことは何か、新入社員に信頼されるOJTトレーナーになるにはどうすればよいかを説いています。第Ⅳ章では、新入社員への業務の教え方と質問への対応の仕方について述べていますが、同じことを何度も聞いてくるような場合はどうしたらよいかなどについても答えています。

 第Ⅴ章では、コミュニケーション力、「報連相」といった社会人としての基本を学ばせるにはどうすればよいかを説き、価値観や「マインド」をどう伝えるか、気働きをどう教えるかといったことまで指南しています。第Ⅵ章では、経験学習をどう生かすか、失敗経験から学ばせるにはどうすればよいか、さらには、仕事にやりがいを感じてもらうための工夫などについて解説しています。

 第Ⅶ章では、仕事の取り組み方をどう教えるかを説くとともに、優先順位をつけた段取りができない、言われたことしかやらないといった場合の対処法を解説しています。第Ⅷ章では、新入社員との1on1ミーティングのやり方について解説し、配属先に不満を漏らす場合や、同期と比べて焦っているときはどうすればよいか、成長を自覚させるにはどうすればよいかを説いています。

 最後の第Ⅸ章では、フィードバックに際して、上手な褒め方とはどのようなものか、「褒める」と「ダメ出し」はどちらが効果的かなどを解説し、注意をすると笑ってごまかす人への対処法なども示しています。

 新人を成り行き任せで現場に放り込み、雑用係から鍛えるというのは、「OJTという名の放置主義」との批判もあるとおり今やアウトであり、きちんと「育成計画」を作成して、トレーナーが不在でも周囲がサポートできるよう「方針」を共有することが肝要(第Ⅱ章)であると、あらためて思いました。

 新人に早く職場になじんでもらうための「オフィスツアー」や、コミュケーソンを促す「お菓子コーナー」など、さまざまなアイデアや工夫が紹介されており、職場にいる「一癖ある人(要注意人物)」の情報は伝えておくべきかなどといった興味深い問いもあります(第Ⅲ章)。また、就業時間内に「OJTタイム」を組み込む(第Ⅳ章)というのも、ポイントではないかと思いました。

 事例ベースでの解説であるため、多くの事例を通じて新人育成の現場が抱える諸問題を具体的にイメージしながら対応法が学べる実務書であり、マネジャーやリーダーにとっての後輩指導の手引き書として、また、人事的には、OJTトレーナー研修の副読本などとしてお薦めです。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2021年8月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー