2021年11月09日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [217]『ジョブ型と課長の仕事―役割・達成責任・自己成長』

(綱島邦夫 著 日本能率協会マネジメントセンター 2021年5月)

 

 コンサルタントによる本書は、ジョブ型人事制度の下での課長の役割と仕事とは何か、これまでとは何が違うのか、何をなすべきかについて、体系的に整理したものです。序章では、ジョブ型雇用の本質とは何かを解説した上で、ジョブ型雇用の成功のカギは、「自律」と能力開発への自主的な取り組みであるとしています。

 第1章では、これからの課長がやるべきこととして、①ジョブとは付加価値を生むものであると正しく理解する、②ジョブの価値を自ら向上させる、③ジョブを実践する原則を知る、の三つを挙げて解説しています。
 第2章では、新常態でのマネジメントに向け、①「競争に勝つ」から脱却する(競争志向から顧客志向へ)、②戦略的思考の定義を変える(競争戦略からブルーオーシャン戦略に立ち戻る)、③管理者から支援者に変わる(ファシリテーターの役割を担う)、④部下ではなくパートナーとして接する(部下から学ぶ)、⑤中間管理職から中核管理職に変わる(成果を生み出すプロフェッショナルになる)、という五つのマインドセット変革について解説しています。

 第3章では、チームの目標管理をどう行うかについて、①自律的な仕事環境をつくる、②作業の棚卸しをする、③目標達成に必要なスキルを確認する、④ジョブディスクリプションを運用する、⑤チームの目標管理を行う、の五つを挙げて解説しています。第4章では、チーム運営に必要なスキルとして、①リーダーシップ、②共感力を生むコミュニケーション力、③問題解決のための思考力、の三つを挙げて解説しています。

 第5章では、課長のマネジメントの課題として、①コンプライアンス問題への対応、②リスクマネジメントへの対応、③ダイバーシティへの対応、④SDGsへの対応、⑤組織づくりへの対応、⑥顧客起点の行動、の六つを挙げて解説しています。第6章では、課長の自己成長のための習慣として、①内省の習慣、②継続的な学習習慣、③定期的なフィードバック習慣、④プロジェクトをつくる習慣、⑤教養を身につける習慣、⑥キャリアビジョンを考える習慣、の五つを挙げて解説しています。

 要約すると、ジョブ型人事制度の下での課長には、経営からの待ちの姿勢ではなく、最適なビジネスを自律的に展開すること、問題の発見と解決のための自発的な目標管理プロセスを運営すること、プロジェクトをリードすること、人の育成と同等に自分のキャリアを開発することなどが求められるということになります。
 いずれも至極もっともであり、「課長の教科書」としては、さまざまな気づきを喚起してくれる本であると思いました。課長の役割や責任、人材育成や自己成長について、ジョブ型という視点で捉え直した試みかと思います。

 ただし、本書で書かれていることの中には、ジョブ型雇用であるかどうかによらず、以前から言われてきた、または近年よく言われていることも多く含まれているように思いました。その意味で、オーソドックスではあるものの、新味という点では今ひとつのようにも思いました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2021年7月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー