2021年07月09日掲載

Point of view - 第184回 中村文子 ―研修のオンライン化がもたらす研修大改革の波

研修のオンライン化がもたらす研修大改革の波

中村文子 なかむら あやこ
ダイナミックヒューマンキャピタル株式会社 代表取締役

P&G、ヒルトンホテルにて人材・組織開発に従事後、講師養成における世界的第一人者であるボブ・パイク氏に師事し、2012年にマスタートレーナーとして認定を受ける。2005年にダイナミックヒューマンキャピタルを設立、クライアントは製薬、電機メーカー、保険・金融、ホテル、さらには大学・学校と多岐にわたり、研修・社内講師養成、研修内製化支援などの分野で活動中。主な著書に『研修デザインハンドブック』『オンライン研修ハンドブック』(いずれも共著、日本能率協会マネジメントセンター)がある。

 2020年春、研修のオンライン化という緊急事態への対応を迫られた方は多かったことでしょう。そしてそれは、「応急措置」ではなく、長期化の様相を呈しています。さらに、以前のような対面での集合研修が行える状況に戻ったとしても、研修実施に関して「以前と全く同じ」に戻るわけではないというのは、多くの方が予測しているところかと思います。

・移動の費用も時間もかからない
・会場費や会場の設営が必要ない
・1時間など短時間の研修も効率よく行える

 オンライン研修のこのようなメリットを実感してしまった以上、オンラインでできることはオンラインで、対面集合が必要なものは限定して行う――と考えるのが自然です。ではどのように組み合わせていけば良いのでしょうか? また、「応急措置」としてスタートしたオンライン研修は、今後どのように進化・発展させていけばいいのでしょうか。

 以下では、自己学習やオンライン研修、そして対面集合研修を組み合わせる「ブレンディッドラーニング」という観点、そして、「研修のデザイン」という観点から考察します。

1.ブレンディッドラーニング

 何かを学ぶ必要があるとき、研修に参加するだけが学ぶ方法ではありません。また、オンライン研修と対面集合研修を組み合わせる、というだけではなく、書籍やインターネット上の情報、eラーニングなどでの自己学習で学ぶこともできます。そうした自己学習(オンデマンド・ラーニング)と、オンライン研修および対面集合研修への参加などを組み合わせて(ブレンドして)学ぶことを、「ブレンディッドラーニング」といいます。

 オンデマンド・ラーニングは、一人ひとりが、自分のペースで、学びたいことを学びたいときに学ぶことができます。例えば、何かの知識を習得してもらいたい場合、オンラインでも対面でも、皆で集合して「先生の話を聞く」より、自分のペースで、必要に応じて繰り返したり、逆に割愛したりして学べるのは大きなメリットです。日常生活において、何かを知りたいと思ったときに、インターネットで検索して、YouTubeなどで1~2分程度の解説動画を見て学んだ経験がある方は多いのではないでしょうか。そうした学び方も学習の一つなのです。

 また、スキルの習得において、全員で集まって練習する前に、個人である程度練習することも有効です。それを動画に撮影して講師からフィードバックをもらったり、AIを活用してフィードバックをもらったりすることも可能です。集合研修でプレッシャーの中で新しいスキルを練習するより、まずは自分である程度自信をつけることができるというメリットがあります。
 こうした集合しない学びのことを「非同期」と呼びます。

 一方、集合する学びは「同期」です。同期では、非同期ではできないこと、同期だからこそできることに焦点を当てます。例えば、グループで課題・問題を解決する、チームビルディングや関係構築をする、皆で何かを創造する――などは人が集まるからこそのメリットが大きいものです。

 このように考えると、講義を聞くことがメインの集合研修(同期)をこれまで行っていたとしたら、大改革が必要だということがお分かりいただけるのではないでしょうか。

2.インストラクショナルデザイン

 では、「同期」の研修はどのように行うのが良いのでしょうか。
 まず、2020年春から起きたことを少し振り返りたいと思います。新型コロナウイルスへの感染対策として急きょオンライン化を求められたとき、最初に課題だったのは、インフラ整備だったことでしょう。パソコン、インターネット回線だけでなく、研修を配信したり参加したりする場所の確保など、さまざまな課題がありました。なんとか環境を整え、オンラインで研修を行えるようになったとき、次の壁は、参加者からは「一方的な研修でツライ」、講師からは「参加者の反応が見えにくい」という意見が上がる点でした。

 日本はハイコンテキストの文化です。「空気を読む」「察する」「様子を見る」ということを重んじます。しかし、オンライン上では小さな枠で上半身を映し出しているだけなので、様子が分かりません。対面の集合研修で、参加者の表情や様子を見て判断し、臨機応変な対応をしていた講師は、オンラインではそれができず非常に困ったという経験をよく耳にします。どうにかしようと、参加者にジェスチャーで反応を示してもらったり、反応ボタンなどのウェブ会議のツールを使ったりするケースも多いようです。一方で、参加者からは、こうした反応を求められるのは苦痛であるという声も少なくありません。

 オンライン上では、対面の集合研修と同じことをやろうとしたり、音声での対話ばかりに頼るのではなく、スタンプ、アンケート、書き込みなどオンラインツールを駆使して文字のコミュニケーションを促し、参加者を巻き込む工夫をしましょう。さらには、参加者同士の対話やアクティビティを通して、前述のとおり、「同期」だからこそ意義があることに集中するデザインが必要なのです。

 そもそも「臨機応変」な対応で乗り切る研修は、講師(人)への依存度が高く、再現性が低いという課題があります。これを解決するには、目的達成のための研修の設計、つまりインストラクショナルデザインがカギを握ります。これもまた、これまでの固定観念を変える必要のある大改革が求められているのではないでしょうか。