2021年10月19日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [216]『同一労働同一賃金を活かす人事管理』

(今野浩一郎 著 日本経済新聞出版 2021年4月)

 

 本書は、同一労働同一賃金の法的要請は人事管理に大きな影響を及ぼすが、人事管理の在り方を決めるものでもないし決めるべきものではない、との考え方の下、人事管理の観点からすると同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのか、同一労働同一賃金は、賃金を合理的に決める上でどのような意味があるのかを検討し、企業のとるべき非正社員の人事管理・賃金管理の方向を解説したものです。

 第1章では、非正規労働者の雇用について、労働市場全体における位置やその構成、正規労働者との賃金格差や仕事のレベルなどの実態を統計資料から読み解いています。そして、それらを踏まえ、同一労働同一賃金を検討するに当たっての留意点として、賞与、退職金など基本給以外の賃金要素と、役職等の高レベルの仕事に就く非正規労働者の基本給を挙げています。

 第2章では、「同一労働同一賃金ガイドライン」を人事管理の観点から読み解き、そのポイントを整理しています。人事管理から見た場合、ガイドラインには「賃金の関連性」の視点と「市場均衡」の視点が欠如しているとした上で、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示しています。

 第3章では、派遣労働者の同一労働同一賃金について、ガイドラインに基づく賃金や賃金以外の待遇の決定ルールはどうなるのかを解説し、人事管理から見た賃金決定のポイントを整理しています。

 第4章では、企業にとっての「あるべき賃金」は多様性を持つが、その多様性を超えた「基本理論」があるとし、人事管理にとっての同一労働同一賃金の意味を解説しています。そして、賃金決定の二つの原則として「内部公平性原則」と「外部競争性原則」を挙げています。

 第5章では、同一労働同一賃金を実現するために人事管理は何をすべきかを考える上で、「同一労働同一賃金は人事管理の一部」であるとの視点と、「非正社員は"制約社員"の1タイプ」であるとの視点を示しています。さらに、伝統的人事管理の特徴とその崩壊について述べた上で、「多元型人事管理」という今後の改革の方向性を示し、その下での賃金決定の諸原則を解説しています。

 第6章では、育児・家事や介護などの事情で、勤務場所や時間、仕事内容に制約を抱える労働者が増えつつある現状から、総合職正社員の制約社員化における課題と、これからの人事管理の方向を示しています。

 第7章では、正社員の賃金の現状と今後の行方、同一労働同一賃金を実現するためのパート社員と高齢社員の賃金の在り方、さらに賞与、退職金、諸手当の同一労働同一賃金について解説しています。パート社員については、一定の勤続後に正社員と同じ仕組みへ移行する「逆Y字型」の人事管理モデルを提唱しているのが興味深いです。

 法律が求める同一労働同一賃金とは何かを人事管理の観点から(批判的視点も含め)解説している点がユニークですが、それにとどまらず、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示した上で、今後の人事管理の在り方や制度策定の方向性まで示しています。一読されることをお勧めします。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2021年6月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー