経団連は19日、2021年春闘で経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」を発表した。新型コロナウイルス禍で経営環境は悪化しており、業種横並びや各社一律の賃金引き上げは「現実的ではない」と指摘。業績が振るわない企業は、基本給を底上げするベースアップ(ベア)は「困難」とした。一方、好業績の企業はベアも「選択肢」と明記し、自社の状況に適した対応を求めた。
業績内容に応じて賃金交渉の方針を書き分けたのは今回が初めて。感染症拡大を機に企業でテレワークなど柔軟な働き方の導入が相次いだことを踏まえ、働き方改革を加速する必要性も訴えた。
多くの企業で業績が落ち込む中、連合が2%程度のベアを目標に掲げたことには「経営側はもとより労働組合からも理解が得られにくい」とけん制した。14年以降続いた賃上げの流れにブレーキがかかるのは必至で、経済を下支えできるかどうかは好業績企業の対応が焦点となる。
指針を取りまとめた経団連の大橋徹二副会長は記者会見で「賃上げの勢いを維持していこうとの経営者の思いはぶれていない」としたが、コロナで打撃を受けた企業は「企業存続と雇用維持がまず大事だ」と話した。指針には、業績悪化の企業は賞与・一時金(ボーナス)も「支給の水準や可否を慎重に検討せざるを得ない」と明記した。
テレワークについては「コロナ時代の新しい働き方の重要な選択肢」と位置付ける一方、「推進自体が目的化してはならない」と指摘した。柔軟な働き方の定着に向けては「硬直的な労働時間法制を見直すべきだ」とも強調。裁量労働制の対象業務の拡大に加え、職種や業種を限定せず、働く場所や時間の選択を委ねる新たな労働法制の整備を政府に要望した。
職務を明確にし成果重視で処遇する欧米流の「ジョブ型」雇用がテレワークに適しているとも記した。年功型賃金など日本型雇用と組み合わせ、各社が最適な制度をつくるよう促した。
主要企業の労使が意見を交わす「労使フォーラム」が26日に開かれ、春闘は事実上始まる。
(共同通信社)