建設現場でアスベスト(石綿)を吸い、中皮腫や肺がんなどの健康被害を受けた元労働者や遺族ら約350人が、国と建材メーカーに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は国の上告を受理しない決定をした。規制を怠った国の責任を認め、原告327人に計約22億8千万円を支払うよう命じた二審東京高裁判決が確定した。14日付。
全国9地裁に千人以上が起こした「建設アスベスト訴訟」で国への賠償命令が確定するのは初めて。二審判決は企業に雇われた労働者だけでなく、「一人親方」と呼ばれる個人事業主も救済対象に加えており、同種訴訟や、今後の補償を巡る議論に影響を与えそうだ。
一方で、メーカー側への請求を退けた二審の判断に対し、第1小法廷は双方の意見を聴く弁論を2月25日に開くと決めた。結論を見直し、救済範囲が広がる可能性がある。決定は裁判官5人全員一致の意見。詳しい理由は示さなかった。
2018年3月の二審東京高裁判決は、医学的知見の集積により、国は1972~73年には作業員が石綿関連疾患にかかる危険性を予見できたと指摘。その上で「遅くとも75年10月には、防じんマスク着用を雇用主に義務付け、現場に警告表示をするべきだった」とし、規制権限を行使しなかった国の対応を違法とした。
国側は一人親方は労働安全衛生法で保護される「労働者」に当たらないと主張した。判決は「建設現場で重要な地位を占めている社会的事実を考慮すれば、保護の対象になる」と判断した。
症状に応じ1人1300万~2500万円の慰謝料を認めたが、安全を確保する責任は主に雇用主にあるとして、国の賠償範囲は3分の1にとどめた。
今回の原告は東京、千葉、埼玉の元労働者らが中心で08年に提訴した。最高裁には他に横浜、京都、大阪、福岡の訴訟も係属している。
(共同通信社)