組織人事コンサルタントによる本書では、労働力不足を補う最も手近で有用な人材はシニアをおいて他にないが、小手先の定年延長をすれば「残念なシニア」が大量に生まれ、企業のみならず日本経済全体の後退をも引き起こすとし、"正しい定年延長"の在り方を提言しています。
第1章ではまず、日本企業の職場に少なからず存在する「残念なシニア」とはどのような人たちかを類型化して示します。著者によれば、会社や周囲の期待に応えられていない「残念なシニア」とは、動くほど周囲の仕事を増やす"迷惑系"、自分に都合よく解釈する"勘違い系"、そもそも能力不足あるいは力を引き出せていない"無力系"の3パターンに大きく分けられるとのことです。
そして、社員が「残念なシニア」化してしまう大きな理由は、定年再雇用の仕組みによるモチベーションダウンにあると指摘しています。
第2章では、少子高齢化の進展で生産年齢人口が大きく減少する中、若手人材の不足を女性の労働参加や外国人雇用だけでカバーするのは困難であるため、シニア雇用が人材確保政策として有力な選択肢となるとしています。
第3章では、シニア雇用のあるべき姿を検討する際の前提となる「雇用ジェロントロジー(老年学)」という考え方を紹介し、加齢による体力・知力・心の変化や心身機能の低下と、それらが職務にどのような影響を及ぼすかを解説しています。
第4章では、定年延長のあるべき姿として、
①会社がシニアに期待する職務をリスト化し、職務内容・要件を明示する
②個々の職務について、その客観的価値に基づく適正な処遇水準を設定する
③個々の職務に最適なシニアを配置する
④シニア一人ひとりの働きぶり・成果に報いる
――という四つのステップを示すとともに、現在の人事制度との乖離が大きい場合、60歳到達前までは従来の人事制度を維持し、60歳到達以降は定年延長のあるべき姿に基づく制度とする、一社二制度とする方法もあるとしています。
第5章では、日本型雇用システム=会社従属型雇用は世界に類を見ないガラパゴス的な雇用システムであるとして、その成立の経緯と特徴を架空の人物のエピソードに基づいて紹介するとともに、会社従属型雇用の真因は正規社員の長期勤続にあり、会社従属型雇用を日本企業が継続する限り、企業各社の成長も日本経済の復活もない、としています。
第6章では、日本企業が今後どのような人材マネジメントを展開していくべきか、官民の提言内容を紹介。そこでからジョブ型の人材マネジメントの必要性を確認するとともに、ジョブ型の人材マネジメントへ一足飛びに移行するのではなく、従来からの「日本型=会社従属型」と「ジョブ型=職務請負型」の複数の人材マネジメントを組み合わせることで多様な人材を受け入れるようにすること、そのために「ジョブポートフォリオ」を設計・活用することを提唱しています。
会社従属型雇用は数ある労働力確保方法の一つと位置づけ、ジョブ型=職務請負型雇用を中心とした労働力確保が求められていることを説き、定年延長は今後の人材マネジメントをジョブ型で行っていくための一里塚となるもので、企業にとって最重要プロジェクトであると説いた本でした。
タイトルからテクニカルなことが書かれていると思われがちですが、人事部員だけでなく、経営者、これから定年を迎える会社員などを読者層に想定した啓発書です。最終章がいかにもコンサルティングファームっぽいまとめ方になっているのがやや気になりましたが、独自の視点で定年延長の問題を捉えているという点で、人事パーソンにとっても啓発的であると思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2020年12月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー