公開日 2020.5.20 深瀬勝範(Fフロンティア 代表取締役・社会保険労務士)
複数業務要因災害(ふくすうぎょうむよういんさいがい)
事業主が同一人でない二以上の事業で遂行された業務を要因として,労働者が負傷、疾病、障害または死亡すること。副業・兼業に広がりに伴い、二以上の事業に使用される労働者(複数事業労働者)に係るセーフティネットの強化を図る必要性が高まってきたことから、複数業務要因災害についても労災保険給付が受けられることになった(2020年3月31日に公布された「雇用保険法等の一部を改正する法律」により、公布日から6カ月以内に労働者災害補償保険法が改正され、運用が開始される)。
例えば、就業先Aで週40時間、就業先Bで週25時間勤務している複数事業労働者が、脳・心臓疾患を発症した場合、これまでは、個々の事業場ごとに業務起因性(業務上の負荷と災害との相当因果関係)の判断が行われるため、就業先A・Bいずれかでの時間外労働実績が労災認定の目安(発症前2カ月間におおむね100時間または発症前2カ月間ないし6カ月間にわたり80時間超の時間外労働が認められる場合)を超えない限り労災として認定されなかった。複数業務要因災害の考え方に基づけば、就業先A・Bの労働時間を合算して捉えることとなるため、合計で上記目安を上回る過重労働を行っていた場合は労災認定される可能性が高まることとなる。
なお、複数業務要因災害の保険給付については、当該事業場の労災保険率に適用するメリット制(事業場の労働災害の多寡に応じて、労災保険率・額を増額させる仕組み)の計算には含めない。
これと併せて、今回の法改正では、複数事業労働者の労災保険の給付基礎日額の算定方法の見直しも行われている。複数事業労働者が労災保険給付を受ける場合、これまでは災害が生じた就業先から支給されている賃金を基に給付基礎日額が算定されていたが、改正後は、その者に賃金を支給しているすべての就業先の給付基礎日額を合算した額に基づいて算定されることになる。