2020年08月04日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [187]『新エクセレント・カンパニー ――AIに勝てる組織の条件』

(トム・ピーターズ 著  久保美代子 訳 早川書房 2020年2月)

 

 本書は、80年代に発表され、世界的ベストセラーとなった『エクセレント・カンパニー』を著した著者が、AI(人工知能)には決してマネできない「エクセレント」な企業活動の条件とは何か、時代に左右されないその本質を説いたものです。

 第Ⅰ部「実践」 、第Ⅱ部「エクセレント」 、第Ⅲ部「人びと」、 第Ⅳ部「イノベーション」、 第Ⅴ部「付加価値」、 第Ⅵ部「エクセレントなリーダー」の全6部15章から成り、第Ⅰ部では、実践こそ戦略であり、実践とは現場で行われるものであって、社長室では起こらないとしています(第1章)。

 第Ⅱ部では、エクセレントとは瞬間瞬間の生き方にあり、実行しなければ存在しないとしています(第2章)。さらに、エクセレントは、エクセレントな組織文化によってのみ維持されるとし(第3章)、中小企業は間違いなくエクセレントたり得るとして、エクセレントな成果を上げている中小企業の事例を紹介しています(第4章)。

 第Ⅲ部のテーマは人間関係であり、まず「人がいちばん」はエクセレントを目指すための最重要項目であるとし(第5章)、従業員一人ひとりにチームにがっちり関わらせて、チームの成長に専念させなければならないとしています(第6章)。また、新しいテクノロジーとの向き合い方を説き、企業の新しい責務は、すべての社員に将来必要となる専門技術を身に付けさせることだとし(第7章)、不安定な世界で雇用を安定させることは、攻撃的な戦略なのだとしています(第8章)。

 第Ⅳ部では、イノベーションの本質は"本気の遊び"であり、思い切って一歩を踏み出すことだとし(第9章)、多様な相手との付き合いが私たちを成長させるのであって、この時代、同じような人とばかり付き合うのは身を亡ぼすとしています(第10章)。

 第Ⅴ部では、AI時代において魂が抜けた業務が氾濫する中で、付加価値こそ優先すべきだとして、付加価値を強化する九つの戦略の筆頭にデザインを挙げ、アップルなどの例からデザインこそ最重要の差別化因子であるとし(第11章)、続いて他の八つの付加価値強化戦略を説いています(第12章)。

 第Ⅵ部では、エクセレントなリーダーの最大の特質は「聴き上手」であることだとし(第13章)、最前線のエクセレントなリーダーは企業のコアバリューであり、もっと評価されるべきだとしています(第14章)。そして最後に、エクセレントなリーダーとなるための26の戦術を紹介しています(第15章)。

 各章の冒頭に「マイストーリー」という著者自身の実体験があり、その後に各トピックが番号付きで紹介されていますが、内容的には特に体系だった構成ではなく、気に入った章から読み進め、各章で紹介されるエクセレントな事例やフレーズを座右の銘として書き留めるという読み方でもよいと思います。

 戦略や数字、分析よりも、組織文化や人こそが大切であって、AI時代においても、エクセレントを生むのは「人」であるという、そうした「人がいちばん」という著者の考え方がブレず、かつ今日においても説得力を持っているのは、個人的には嬉しく、また心強く思いました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2020年4月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー