2020年07月07日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [185]『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』

(堀内都喜子 著  ポプラ新書 2020年1月)

 

 フィンランドは、国連発表の幸福度ランキングで、2018年、2019年と2年連続で1位となった国です。フィンランド人は、仕事、家庭、趣味、勉強のいずれにも貪欲で、それでいて睡眠はしっかり取るとのことですが、本書は、そうしたフィンランド流の働き方の秘訣を紹介したものです。

 第1章では、フィンランドがなぜ幸福度1位なのかを解説しています。それによれば、1人当たりのGDPは日本の1.25倍で、インフラや教育の水準が高く、子ども貧困率は世界で2番目に低く、働く人の有給消化率はほぼ100%、残業はほとんどしないとのことです。

 第2章では、フィンランドの人たちの働き方を紹介しています。フレックス利用で8時から働き始め、16時半を過ぎるとオフィスにはほとんど人はいなくなり、3割の人が週に一度以上在宅勤務し、オフィスもフリーアドレスの会社が増え、立って仕事をする人も多いとのこと。仕事中にコーヒー休憩を設けることが法律で決まっているというのは驚きですが、社員同士が交流するレクリエーションデイや、外で話し合うリトリート、サウナ会議などもあったりするそうです。

 第3章では、フィンランドの人の働き方を取り上げています。フィンランドの仕事で肩書は重要ではなく、組織はフラットであり、リラックスした上下関係は、年齢、性別、学歴などによっても左右されないとのこと。歓送迎会もコーヒーで行われ、接待もランチミーティングなどで済ますことがあるとし、また、父親の8割が育児休暇を取得するとのことです。

 第4章では、フィンランド人の休み方を見ていきます。フィンランド人は仕事以外の時間も大切にしており、睡眠は7時間半以上確保し、週末も趣味、スポーツなどに充てるとのことです。会社も福利厚生として、仕事以外の活動や趣味を支援しています。また、土曜日は「サウナの日」で、9割以上の人がサウナを楽しみ、サウナは接待の場にもなるとのことです。夏休みが1カ月と長い分、夏は大学生が戦力となり、企業にとってもインターンシップとしてプラスになっています。

 第5章では、フィンランド人の根底にある「シス」という考え方を紹介しています。シスは、フィンランド語で、困難に耐え得る力、努力して諦めずにやり遂げる力、不屈の精神、ガッツといった「自分の強い気持ち」を表わす言葉で、それが、仕事、家庭、趣味、勉強のいずれにも貪欲に取り組む姿勢につながっているとしています。

 第6章では、フィンランド人の貪欲な学び方を見ています。総合大学は授業料無料で、多くの人が修士取得まで勉強を続け、大学や職業学校などでは社会人向けの講座を多く用意しているため、転職者の2人に1人は、転職の際に新たな専門や学位を得ているとのことです。

 本書は、著者の前著『フィンランド 豊かさのメソッド』(2008年/集英社新書)と同様、豊かさとは何かということがテーマになっているようにも思いました。人事パーソンの目線で言うと、前著のビジネス版ということで、なぜワーク・ライフ・バランスと仕事の効率が両立可能なのか、もう少し突っ込んでほしかった気もします。ただし、何か自分の職場や生活にとってヒントになるものはないか探してみれば、それなりに得られるものはあるように思います。

<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2020年3月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー