アメフトのコーチ出身のプロ経営者で、スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾズ、ラリー・ペイジら"GAFA"企業の創業者がコーチとして仰ぎ、シリコンバレーのレジェンドと言われながら、2016年に亡くなったビル・キャンベル。本人は表に出ることは少なく、黒子役に徹していたとのことですが、彼の教えがどのようなものであったかを、元グーグルの経営幹部らが紹介した本です。
まず紹介されているビルの考え方は、「人がすべて」という原則です(第2章)。マネジャーのいちばんの仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことであると。また、コミュニケーションが会社の命運を握るとし、例えば月曜のスタッフミーティングでは、まず一人ひとりに週末何をしたかを尋ね、旅行帰りの人がいれば簡単に旅の報告をしてもらったとのことです。その目的の一つは、チームメンバーが仕事以外の生活を持つ人間同士として互いを知り合えるようにすること、一つは、全員が一人の人間として楽しんでミーティングに参加できるようにすることだったとのことです。
また、ビルにとって「信頼」は最優先されるべき価値観であり(第3章)、信頼を確立することは、チームの「心理的安全性」を育むための必要条件であるとしていたとのことです。心理的安全性とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり、ありのままでいることに心地よさを感じられるようなチーム風土である」としています。
コーチングを受け入れられると判断した人に対して、ビルはじっくりと耳を傾けて誠意を尽くし、コーチされるのに必要な資質として、「正直さ」「謙虚さ」「努力を厭わない姿勢」「常に学ぼうとする意欲」を挙げていました。「正直さ」が求められるのは、コーチングの成功には、自分の弱さをさらけ出す必要があるためであり、「謙虚さ」が重要なのは、リーダーシップとは、会社やチームに献身することだと考えていたためとのことです。
またコーチングにおいて、ビルは、相手が言いそうなことを先回りして考えたりせず、とにかく耳を傾けることが重要であるとし、「すべきこと」を指図することは一度もなく、むしろどんどん質問を投げかけて、本当の問題に自分自身で気づかせるようにしたとのことです。
さらに、ビルは、全員が「チーム・ファースト」となることを求め(第4章)、チームを最適化すれば問題は解決するとしたとのことです。物事がうまくいかないときは、いつにも増して「誠意」「献身」「決断力」がリーダーに求められるとし、小さな「声かけ」が大きな効果を持つことを、自身で示していたとのことです。
最後に紹介されているビルのモットーは、「パワー・オブ・ラブ」(ビジネスに愛を持ち込め)です(第5章)。人を大切にするには、人に関心を持たねばならず、プライベートな生活について尋ね、同僚の家族を理解し、大変なときには実際に駆けつけて手を差しのべていたとのことです。
ビル・キャンベルへの追悼の意を込めた伝記としての要素もあるため、やや故人が絶対視されている印象もありますが、彼が実践した人材管理やコーチングの原則はいつの時代にも通用するものであり、人事パーソンにとっても参考になるかと思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2020年2月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー