公開日 2020.1.14 深瀬勝範(Fフロンティア 代表取締役・社会保険労務士)
役員等賠償責任保険(やくいんとうばいしょうせきにんほけん)
株式会社が保険会社との間で自社の役員等を被保険者とする契約を結び、役員等が職務遂行中の行為に起因する訴訟を起こされた場合、そこで生じた損害(損害賠償金や訴訟費用など)について保険会社が填補(てんぽ)する仕組み。英語で「役員」を意味する「Directors and Officers」の頭文字をとり、「D&O保険」とも呼ばれる。なお、役員等を被保険者とする保険であっても、生産物賠償責任保険(PL保険)、企業総合賠償責任保険(CGL保険)、自動車賠償責任保険、海外旅行保険等に係る保険契約は、役員等の職務の執行の適正性が著しく損なわれるおそれがないものとして、役員等賠償責任保険から除外されている。
役員等が、訴訟を起こされることを過度に恐れずに挑戦的な判断・行動をとるようになる、安心して職務に専念できるなどの効果が期待される一方で、役員等が会社に対して発生させた損害を会社が支払う保険料で賄うという利益相反が生じる問題も指摘されている。
役員等賠償責任保険は、長期にわたり実務の中で広まってきたものであるが、2019年に成立した改正会社法(同年12月11日公布。施行日は一部を除き、公布日から1年6カ月を超えない範囲内において政令で定める日)において、次のような定めが設けられた。
(1)役員等賠償責任保険契約の内容は、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。
(2)役員等賠償責任保険契約のうち、取締役・執行役を被保険者とするものなどの締結については、利益相反取引規制等を適用しない。
(3)役員等賠償責任保険契約を締結している公開会社は、当該年度の事業報告の内容に次の事項を含めなければならない。
①役員等賠償責任保険契約の被保険者
②役員等賠償責任保険契約の内容の概要(役員等による保険料の負担割合、填補の対象とされる保険事故の概要、および役員等賠償責任保険契約によって役員等の職務の適正性が損なわれないようにするための措置を講じているときは、その措置の内容を含む)
なお、役員等が訴訟や当局の調査などの対象になった場合に、その役員等が負担する手続費用や損害賠償金などを(保険会社を通さずに)一定の範囲で会社が補償することを「補償契約(会社補償)」という。2019年の会社法改正では、役員等賠償責任保険と併せて、補償契約に関する定めも盛り込まれた。