2020年03月03日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [177]『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』

(松尾 睦 著 ダイヤモンド社 2019年10月)

 

 「経験学習」という言葉は、企業における人材育成の場で、最近よく使われるようになっているようです。部下や後輩が「自らの経験から学べるように支援する」ことが、人材育成上の課題として捉えられるようになってきたのではないかと思います。

 本書における「経験学習リーダーシップ」とは、まさにそうした「職場メンバーの経験学習をうながす指導」を指し、マネジャーはどうすれば部下の「経験から学ぶ力」を高め、部下の成長を効果的に支援できるのかを解明することが本書の目的となっています。

 本書では、さまざまな調査の結果、育て上手のマネジャーがどのような指導をしているかが明らかになったと同時に、普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」も見えてきたとしています。

 その普通のマネジャーが陥りやすい「落とし穴」とは、①弱みを克服させることに重点を置き、②問題や失敗のみを振り返らせ、③マネジャーが職場のすべてを仕切るというアプローチ法であり、こうした指導方法は、「反省」を重視した、極めて日本的・職人的な育成方法であるとのことです。

 これに対し、育て上手のマネジャーは、①強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づけ、②失敗だけでなく成功も振り返らせることで、強みを引き出し、③中堅社員と連携しながら、思いを共有するという、三つのエッセンスから成るアプローチ法をとるとのことです。

 第1章では、経験学習の基本プロセスを示し、第2章では、先に述べた育て上手の指導法の三つのエッセンスを紹介しています。第3章から第5章にかけて、①潜在的な強みを探り、成長ゴールで仕事を意味づける(3章)、②失敗だけでなく、事実やデータに基づいて成功も振り返らせ、強みを確認し引き出す(4章)、③中堅社員と連携しながら、意見やアイデアを引き出し、ビジョン・理念をつくり共有する(5章)という三つのエッセンスに沿った、より詳しい指導法や事例を解説しています。

 さらに、こうした指導法に加え二つの"補完スキル"として、第6章と第7章で、④成長をうながす仕事の創り方(6章)、⑤成長をうながすリフレクション(振り返り)支援(7章)について、それぞれ指導法などを解説し、終章で、これまでの内容をまとめています。また、巻末に付録として、部下の強みをチェックする「強みのリスト」、本書の内容をより深く理解するための「自己診断チェックリスト」、育成計画立案のための「育成ワークシート」が付されています。

 内容的には、調査結果を基にした研究書とも言えるものですが、体系的によく整理され、「部下の強みを引き出す」という大きな柱が一本あることで分かりやすくなっています。また、ツール的な素材も織り込まれているため、実際の職場で応用が可能な実務書(マニュアル)としても読めます。

 著者自身も述べているように、本書に書かれていることのすべてを一度に実行することは難しく、できるところから実践していくことになるかと思います。また、職場で起きていることが、本書で書かれていることのどの部分に該当するか、常に意識することも必要かと思います。そうした地道な実践を通して初めて、組織メンバーの「経験から学ぶ力」を高めるよう指導する上での、ガイドラインになる本であると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年11月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー