工学博士であり、人間のミスと安全に関する研究をさまざまな業種との共同研究において現場主義で進めてきたという著者が、マニュアルの本質とあるべき姿を語った本です。マニュアル作りに悩んでいる読者に向けて、使えるテクニックを具体的に説く一方、それらを通じて「仕事とはどうあるべきか」という根源的な問いに答えようとしたものです。
まえがきで、マニュアル作成の原則を示した上で、本章へ入っていきます。その原則とは、①マニュアルはすべてを1ページ以内に収める、②ルール風には書かない、③見本で示す、④絵・図・写真のビジュアルを使う、⑤指示を断言する、⑥単文・肯定形・大和言葉で書く、⑦工程の途中に"味見"のタイミングを入れる、⑧マニュアルの原稿を部外者や家族に下読みさせる、⑨執筆者の氏名や更新履歴を明記する、の九つです。
第1部「マニュアルの文章術」では、第1章で、マニュアルを作る目的を再整理しています。第2章では、マニュアルの文章作法について、冒頭に掲げたマニュアル作成の原則に沿って解説しています。断言する、単文で書く、大和言葉で書く、肯定形で書く、といった原則は、そうあるべき理由が具体例によって明快に示されています。第3章では、マニュアルはどうあるべきか、その本質を探っていて、マニュアル作成の際の心構えを説いた章ともいえる内容です。
第2部「正しい作業手順の作り方」では、第4章で、作業手順の全体構造をどのように作るかを説いています。第5章では、作業は「型から型へ」で組んで、途中までの成果が積み立てられていくのが望ましいとしています。第6章では、チェックは、行為の有無よりも、結果を検証する(味見する)ほうが確実であるとし、第7章では、作業の意味は、時代の変化によって変わり得るとしています。
第3部「練習問題」では、ルールブック調のマニュアルを示して、それを手順主義に書き直すとどうなるかといった例題が3題と、それらの解答例が示されています。
まさに、マニュアルを作るためのマニュアルのような本であり、マニュアルを作成したり見直したりする際のテクニカルな面での気づきを促してくれる本でした。ただし、そうした実務書的な要素もありながら、一方で、マニュアル作りに際しての心構えを説いた啓発書でもあり、さらに言えば、最初に述べたように、「仕事とはどうあるべきか」という問いに答えようとした本でもあるように思いました。
本来、マニュアルは作業ミスを失くすための重要なものであり、作業時間や教育時間を短縮できるメリットもあるはずですが、実際にはマニュアルが活用されず、社内で浮いた存在となっているケースも少なくないように思われます(それでいて、マニュアルがあるという事実に安心してしまっていたりもする)。本書を読んで、自社に今あるマニュアルを今一度見直してみる契機とするのも良いかもしれません。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年10月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー