2019年10月28日掲載

令和元年8月1日以降の雇用保険における基本手当・雇用継続給付の支給限度額等の見直し内容

労働保険関係

 雇用保険の基本手当は、離職者の賃金日額を基に算定される。賃金日額には上限額と下限額が設定されているが、「毎月勤労統計調査」による平均給与額(毎月決まって支給する給与の年度による平均額)の増減により、毎年8月1日に当該金額が見直される。今年は、平成30年度の平均定期給与額が前年度比で約0.89%増加したことから、賃金日額の上限額・下限額とも引き上げとなった。以下では、この賃金日額の見直し内容と、それに伴う基本手当、高年齢雇用継続給付等の雇用継続給付の支給限度額の変更等について解説する。

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則第1条の4第9項の規定に基づき同条第8項に規定する控除額を変更する件(令元. 7.31 厚労告73)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則第1条の4第5項から第7項までの規定に基づき同条第5項に規定する自動変更対象額を変更する件(令元. 7.31 厚労告74)
雇用保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に関する政令第57条の2第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める率の一部を改正する件(令元. 7.31 厚労告75)

近藤杏介 社会保険労務士(社会保険労務士法人みらいコンサルティング)

1. 賃金日額・基本手当日額の変更

 基本手当の日額とは、賃金日額(原則として離職前6カ月間に支払われた賃金額を180で除した額)に50~80%(離職時の年齢が60~64歳は45~80%)の給付率を乗じて得た額をいう。この給付率は、賃金日額が低額な人ほど高く設定され、基本手当日額が過度に低くならないような仕組みとなっている。
 賃金日額には上限額と下限額が設けられており、「毎月勤労統計調査」の平均定期給与額の増減に基づき、毎年8月1日に変更される。これは景気等による賃金額の増減を賃金日額に反映するためである。このように賃金日額の上限額と下限額を毎年定期的に見直すことで、賃金日額に給付率を乗じて算出する基本手当日額の上限・下限も自動的に調整される仕組みとなっている。
 今年は、平成30年度の平均定期給与額が前年度比で約0.89%増加したことから、賃金日額の上限額が引き上げとなり、それを受けて基本手当日額の上限額も引き上げとなった[図表1]
 離職時の年齢の賃金日額に応じた基本手当日額の水準は、[図表2]のとおりである。

図表1 令和元年8月1日以降の賃金日額と基本手当日額の上限額・下限額

図表2 令和元年8月1日以降の離職時年齢の賃金日額に応じた基本手当日額の水準

2. 失業期間中に収入を得た場合の基本手当の減額算定に関する控除額の変更

 失業の認定を受ける期間中に自己の労働によって収入を得た場合、その収入の1日分に相当する額から控除額を控除した額と基本手当日額との合計額が賃金日額の80%相当額を超えるとき、その超える額の分だけ基本手当の日額は減額される[図表3]。この控除額が、令和元年8月1日以降1295円から1306円に引き上げられた。なお、自己の労働によって得た収入だけで賃金日額の80%相当額を超えるときは、基本手当は支給されない。

[失業期間中に収入を得た場合の基本手当の計算]
①「不支給」のケース
 収入額-控除額 (1,306円)>賃金日額の80%
②「全額支給」のケース
 基本手当+収入額-控除額 (1,306円)≦賃金日額の80%
③「減額支給」のケース
 基本手当+収入額-控除額 (1,306円)>賃金日額の80%
※原則として1日4時間未満の労働が減額調整の対象となる。1日の労働が4時間以上となる場合、その日は就労したことになり、基本手当の支給対象とはならない。

<例>
 賃金日額7000円、基本手当の日額5029円の者(60歳未満)が、失業の認定期間(28日間)中に2日間内職し、内職により6000円を得た場合における認定期間分の基本手当の支給額(上記③のケースに該当)
⑴1日当たりの減額分
 {(6,000円÷2-1,306円)+5,029円}-7,000円×80%=1,123円
⑵基本手当の支給額
 5,029円×(28日-2日)+(5,029円-1,123円)×2日=13万8,566円

図表3 失業期間中に自己の労働による収入がある場合の基本手当の減額の算定に係る控除額

3. 高年齢雇用継続給付、育児休業給付、介護休業給付の支給限度額等の変更

 「毎月勤労統計調査」の平均定期給与額の増減を基にした賃金日額の変更に伴い、令和元年8月1日以降の支給対象期間から、下記の雇用継続給付の支給限度額も変更となる。

[1]高年齢雇用継続給付

⑴支給限度額、最低限度額
支給限度額 36万169円➡36万3359円
最低限度額 1984円➡2000円
 支給対象月に支払いを受けた賃金額が上記支給限度額以上であるとき、高年齢雇用継続給付は支給されない[図表4]
 また、支給対象月に支払いを受けた賃金額と高年齢雇用継続給付として算定された額の合計が支給限度額を超えるときは、「36万3,359円(支給限度額)-(支給対象月に支払われた賃金額)」が支給額となる。
 なお、高年齢雇用継続給付として算定された額が、最低限度額である2000円を超えない場合は、支給されない。

図表4 高年齢雇用継続給付の算定に係る支給限度額

⑵高年齢雇用継続給付の給付金の算定の基となる60歳到達時等の賃金月額の上限額・下限額
上限額 47万2500円➡47万6700円
下限額 7万4400円➡7万5000円
 60歳到達時の賃金が上記の上限額以上(下限額未満)であるときは、賃金日額ではなく、上限額(下限額)を用いて支給額が算定される。

[2]育児休業給付

支給限度額  上限額
 ①支給率67% 30万1701円➡30万4314円
 ②支給率50% 22万5150円➡22万7100円
 ①は、平成26年3月28日に成立した改正雇用保険法によって、育児休業を開始してから180日目までは、育児休業給付の支給率を休業開始前の賃金の67%とする暫定措置である(改正前は全期間について50%)。

[3]介護休業給付

支給限度額 上限額
 33万2052円➡33万5067円

4. 実務への影響

 基本手当その他上記雇用継続給付の支給限度額が引き上げとなったことで、令和元年8月1日以降の対象期間については、各給付の支給額が増額となる場合がある。なお、この支給額の計算はハローワークが行うため、今回の変更を受けて、会社側および受給者が別途手続きを行う必要はない。
 ただし、高年齢雇用継続給付の支給額を考慮して60歳以降の給与額を設定している会社では、給与額の見直し等を要する場合がある。