コンピテンシー・モデルで知られるヘイグループを一部前身とするコンサルティングファームのコーン・フェリーに属する著者による本書では、日本企業は今、これまで優秀と見なされてきた人材とは明らかにタイプの異なる人材を求めているとし、それはどのような人材なのかを自社の調査結果などから分析して、人材マネジメントの変革の必要性を説いています。
第1章では、日本企業が追い求めている新種の人材とはどのようなものかについて、コーン・フェリーが定義する22種のコンピテンシーのうち、日本企業の直近3年とその前の10年との採択率上位10項目を比較することで分析しています。それによると、「組織志向性」が上位から外れて、「顧客志向性」と「自信」が新たに上位に入り、「分析的思考力」の代わりに「概念的思考力」が登場し、「セルフコントロール」が外れるなどしているとのことです。
第2章では、次代の経営者はどのような資質を備えているべきなのかを、コーン・フェリーの27種のCEOコンピテンシーのうち、日本企業の採択率の上位にランクインした項目を基に分析しています。そして、その結果から、次代の経営者のあるべき資質を、①広い見識を持って、自分なりの見解をつくる、②経営チームを構築する、③経営者としての覚悟を持つ、④組織をつくる、⑤企業を永続させる、という五つのコンピテンシーに類型化しています。
第3章では、新しい事業を生み出す事業創造家の特質を、サンプル企業のコンピテンシー診断結果などから分析しています。その結果から、事業創造家には「事業構想人材」と「事業化人材」の2種類があるとし、事業アイデアを構想する「事業構想人材」が高いレベルで持つコンピテンシーは「自信」「誠実性」「概念的思考力」の三つであり、新しい事業アイデアを確実な収益源として立ち上げていく「事業化人材」が高いレベルで持つコンピテンシーは「達成指向性」「分析的思考能力」「組織認識力」であるとしています。
第4章では、最近よく言われているデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、DXとは何か、日本企業にはどのようなデジタル人材が必要なのかを分析・考察し、DX人材に共通するのは、①デジタル技術の最新のトレンドについて、十分な理解をしていること、②会社が解くべき課題を発見し、デジタル技術を駆使したソリューションを組み立てる能力であるとしています。
第5章では、次代の経営者候補、新規事業創造家、DX人材などの、これまで述べてきた新種の人材が有している性格的な特性を、①原動力、②認識、③ラーニング・アジリティ、④リーダーシップ特性、⑤阻害リスクの回避の五つのカテゴリーと17の特性項目に照らして類型別に分析し、その中でも共通して高いスコアとなっている七つの項目に着目して解説しています。
本書が指摘するように、環境変化に対応できる経営人材、事業を創造する人材、デジタル・トランスフォーメーションを実現する人材のいずれも、多くの日本企業が欲するニュータイプの人材であり、日本における市場価値も高く、それだけ希少性も高いため、どの企業でもそう簡単には見つからない気がします。
だからといって手をこまねいているのではなく、本書が推奨するように、採用基準を根本的に変えるなり、あるいは新種の人材を社外に求めるのではなく、キャリアの動線を見直して社内で内製しようとすることも必要になってくるように思いました。ただし、この部分について本書は、「さまざまな経験を積ませる」的な漠たる結論で終わってしまっているのが、やや物足りなく感じられました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年9月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー