2020年01月07日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [173]『モンスター部下』

(石川弘子 著 日経プレミアシリーズ 2019年8月)

 

 本書では、これまであり得なかったようなトラブルを起こす「モンスター部下」が昨今増殖し、管理職の頭を悩ませているとして、彼ら・彼女らの実態とタイプ分類、その対処法について解説しています。

 第1章は「自己中心モンスター」の例として、欠勤を繰り返し、突然、退職代行業者を使って去っていく部下、育児を理由に周囲に仕事を押し付け、注意したら「マタハラです!」と叫ぶ部下など、六つの事例が取り上げられています。

 第2章では、こうしたモンスター部下はなぜ"量産"されるのか、その社会的メカニズムを分析し、モンスター部下のタイプとしては、第1章で紹介した「自己中心的で幼稚なタイプ」と、「そもそもモラルが非常に低いタイプ」がいるとしています。

 第3章は「低モラルモンスター」の例として、内緒の副業に経費不正、脱税までやる「闇収入モンスター」、客先の男性と不倫関係に陥る「モラル欠如型モンスター」など、七つの事例が取り上げられています。

 第4章は、これも最近多い"高齢部下"の「シニアモンスター」化の例として、若手社員を手下につけて上司をシカトする"半グレ"シニア社員、転職先でマウンティングし、同僚をバカにする大手出身モンスターなど、四つの事例が取り上げられています。

 第5章では、モンスター部下とどう対峙すべきかを説いています。ここでは、まず、モンスター部下のタイプを知ることが大事であるとして、その類型としての「嘘つきモンスター」「自己愛型モンスター」「モラル低下モンスター」などを詳しく解説しています。

 例えば「嘘つきモンスター」は、ミスを隠蔽したり自分を優位に保つために嘘をつくタイプで、「自己愛型モンスター」は、"悲劇のヒロイン"と化して、周囲の関心を得ようとするタイプ(女性に多い)や、周囲を無能扱いすることで自分を誇示するタイプ(男性に多い)であり、「モラル低下モンスター」は、善悪よりも自分がいかに得をするかで動き、自分の過ちを他者のせいにするタイプであるとのことです。

 また、昨今は、セクハラ、パワハラに限らずさまざまな職場のハラスメント問題が取り上げられている折、ハラスメントに該当する事実がないのに被害者を装って被害を訴える「偽装ハラスメント」型モンスターが多くなっているとし、理不尽な要求を突き付けてくる部下にどう対処すべきかを説いています。

 さらに、場合によってはやむを得ず辞めさせなくてはいけない場面も出てくるだろうとして、解雇を実施する場合の留意点を挙げています。ただし、個人的には、その前に、退職勧奨やそれを示唆するアクションを実施するほうが、リスクが少なく現実的ではないかという気がしました。実際、本書の事例で取り上げられているものも、モンスター部下のほうから辞めていったことで問題が沈静化した例が多くあります。

 事例の内容が強烈でリアリティがありました。これらを読みながら、自分ならばどう対処するか、頭の中で思考実験してみるのもいいのではないでしょうか。また、「辞めてくれて助かった」で終わらせるのではなく、社内健全化のための適正な排除機能が働く組織風土づくりというのも、重要ではないかと思いました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年9月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー