2019年06月14日掲載

人生100年時代「生涯現役」に向けた40代からのキャリア戦略 - 第5回・完 生涯現役の意義を考える


佐藤文男 さとう ふみお
佐藤人材・サーチ株式会社
代表取締役

【ポイント】

①生涯現役で仕事を継続することを考えておくことは、年金問題に対するリスクマネジメントになる

②ずっと家にいるよりは、外に出て行動しているほうが、家族との関係を良好に保てる

③健康で仕事を続けることは人生にハリをもたらし、精神的にも身体的にも生きがいをもたらす

④仕事を通じて社会とのつながりを持ち、自分の役割や存在意義が明確になって、生きる価値を見いだせる

1.年金から自立する意識が生まれる

 現在の国の財政状況を鑑みると、歳出が税収などを上回る財政赤字の状況が続いており、歳出と税収などの差額を借金で埋め合わせてきた結果、借金(普通国債残高)は年々増加し、2018年度末で883兆円に上ると見込まれている。これは税収の約15年分に相当する。ある意味、20万円の収入しかないビジネスパーソンが、借金をしてまで40万あるいは50万円レベルの生活をしているような状況だから、どう考えても、現在の財政状態で今後も突き進んでいくことは難しいと思われる。国民の多くが国の財政状況において将来に対する不安を多少なりとも持っているのではないだろうか。
 そういう前提で考えれば、万が一年金が支給されなくなったとしても、生涯現役で仕事を継続することを考えておくことは、いわゆる人生におけるリスクマネジメントになる。
 総じて、現在は男女問わず平均寿命が80歳を超えているので、最低でも80歳までは、自分でなんとか稼ぐという意識を持っておくことは人生のリスクマネジメントとして大切なことであると考えられる。すなわち年金に頼らず、生涯現役で働いて自分で稼いで生活していくという発想は、ある意味で真のリスクマネジメントといえるだろう。

2.家族との良好な関係を構築できる

 特に男性に該当する内容だが、今まで「亭主元気で留守が良い」と言われて会社で朝早くから夜遅くまで頑張ってきたビジネスパーソンが、60歳で定年を迎えて家に1日中いると、なんとなく家の中の雰囲気が変わってきて、結果的に家庭内がぎくしゃくしてしまう場合があるようだ。
 要するに、今までは夫が仕事で家にいなくて、それで家族の秩序が保たれていたわけだ。「亭主元気で留守が良い」というのは、1986年のTVコマーシャルのコピーから広がった言葉で、流行語の一つにも選ばれた言葉だが、残念ながら現在でも現実に当てはまっているようだ。やはり定年を迎えても、家に1日中いるよりは、外に出て行動しているほうが、家族との関係を良好に保てるのかもしれない。
 生涯現役を前提にして仕事を継続できるならば、家族との良好な関係を維持できて、かつ再構築できるのではないだろうか。今まで平日には朝出掛けて夜に帰宅するという夫の生活スタイルに長年慣れてしまった妻にとっては、生涯現役を目標に60代あるいは70代になっても平日に朝出掛けて夜に帰宅する流れが継続することは、妻にとっても安心感を与えることにつながると想定される。
 要は、60歳までの生き方を60歳以降もあまり変えないで継続できれば、家族との関係も維持できるのではないかと人生の先輩方の生きざまを見ていて思う次第である。
 一方で、仕事ではなくボランティアあるいは趣味に生きるという選択肢もある。ボランティアにしても趣味にしても、60代以降、時間を割くことは大変有意義なことだとは思うが、それでも、生活の中心となる仕事を別途持っているということは、今までの生活リズムを崩さない点で、自身の健康や家族との良好な関係を維持できることにつながると考えられる。

3.仕事は健康維持をサポートする

 私は、82歳の誕生日まで仕事をしていた父が、仕事を辞めてから徐々に元気がなくなっていた状況をまざまざと見ている。その後、89歳で亡くなるまでの7年間は、まさに人生の柱を失ったような感覚を父の背中を見て感じた。やはり健康でいる限り仕事を続けることは人生にハリをもたらし、精神的にも身体的にも意義のあることではないかと、つくづく思った次第である。
 確かに、60代あるいは70代になっても仕事をしている方は、外見を見ても若々しいし、元気で健康な方が多い。もちろん生涯現役の要件として健康に気を配ることは必要だが、本当の意味での健康維持の礎は仕事ではないかと考える。
 読者の皆さんの周囲でも、60代あるいは70代で仕事をしている方が、大変元気そうで、充実した人生を過ごしていると感じるとしたら、仕事そのものが、健康にもプラスに働いている現れといえるかもしれない。

4.社会とのつながりを維持する

 世界保健機関(WHO)の健康の定義には、肉体的、精神的だけでなく「社会的」という要素が入っている。
 仕事というものは、基本的に社会とつながらなければ存在しない。すなわち、仕事を通じて社会とのつながりを継続することで、自分の役割とか、存在意義が明確になって、生きる価値を見いだせて、それが真の健康につながると考えられる。
 80歳でエベレストに登頂した三浦雄一郎氏が、2019年1月に、南アメリカ大陸最高峰のアコンカグア(標高6961m)に、86歳にしてチャレンジした。健康面の配慮から結果的に登頂は断念したが、80歳でエベレストを踏破した人が、86歳でまたチャレンジする。三浦雄一郎氏の前向きでチャレンジングな姿勢に勇気づけられた方は多いのでないかと思われる。
 80代あるいは90代になっても、町の医者として現役で仕事をされている方や、美容師として活躍して周囲から頼りにされている方がテレビで紹介されることがある。個人的なスキル、あるいは特殊な技能を持ったスペシャリストは、80歳を超えても健康であれば仕事を継続することが可能であり、社会とのつながりを維持できるわけだ。

5.若い世代に向けての社会貢献の尊さ

 ある俳優が、80代になっても現役で俳優を続けながら、若手の俳優を指導することで、若手にプラスな刺激を与えているということを聞いたことがある。
 今後は、企業内で70代あるいは80代になっても仕事を続けている方は、若い世代から尊敬されるだろう。気概を持った70代あるいは80代が最前線で頑張って仕事をして組織に貢献している姿は、若い世代にとって、とても頼もしく映ることだろう。言い換えるならば、そういう姿が若い世代に将来への希望を与えることにつながる。
 第2回の年齢意識改革で示したように、80歳を60歳と捉え直し、60代は40代、70代は50代の感覚で、元気よく、若々しく仕事を続ける70~80代が増えることが、日本の将来を救うと私は考えている。
 したがって、現在40~50代の読者の方は、生涯現役のロールモデルとして、若い世代にとって模範となることが、自身の人生ならびに日本の将来のため貢献になる。ぜひとも生涯現役で実りの多い人生を設計できるよう、今から目指してほしいと心から願う。

佐藤文男 さとう ふみお
佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役
1984年一橋大学法学部卒業後、日商岩井(総合商社/現在の双日)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(外資系証券/現在のシティ・グループ証券)、ブリヂストン等異業種において人事(採用)業務および営業(マーケティング)を中心にキャリアを積み、1997年より人材紹介ビジネスの世界に入る。2003年10月に佐藤人材・サーチ株式会社を設立して代表取締役社長に就任。2013年4月に第10期を迎えるタイミングで約1年3カ月シンガポールにおいて人材紹介業務の研鑽を積む。2019年で人材紹介ビジネス経験は23年目に入ると同時に、2019年4月で佐藤人材・サーチ㈱は第17期を迎える。
著書は共著1冊を含めてこれまで18冊を出版。近著に『3年後、転職する人、起業する人、会社に残る人』『社長は会社を変える人間を命がけで採りなさい』『今よりいい会社に転職する賢い方法』(いずれもクロスメディア・パブリッシング刊)等がある。
本業の傍ら、2017年4月から山梨学院大学の経営学部客員教授として「実践キャリア論」の授業を実施する。

 佐藤人材・サーチ㈱のホームページ  www.sato-jinzai.com