2019年09月10日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [165]『組織行動論 (ベーシック+)』

(開本浩矢 編 中央経済社 2019年3月)

 

 本書は、組織行動論の初学者を念頭に書かれたテキストですが、書かれていることは日常生活のあらゆる場面で応用可能であるため、ビジネスパーソンをはじめ一般の読者にも読んでもらいたい本であるとのことです。

 全16章を概観すると、第1章で、組織行動論とはどのような領域かを概説し、第2~7章で、組織の中での一人ひとりの心の動きや行動に関するトピックを取り上げています。次に、第8・9章で、チームや集団といった複数の人の存在を前提に解説し、第10~12章では、それよりもさらに大きな組織全体のトピックを扱っています。第13・14章では、組織と個人の接点に焦点を当て、第15・16章では、専門的な人材、女性、高齢者など、日本企業における新たなプレーヤーに焦点を当てています。

 具体的には、第2章でモチベーションについて、代表的なモチベーション理論を紹介し、第3章では組織コミットメントについて、第4章では組織内での意思決定のありようについて解説しています。第5章では、キャリア・マネジメントについて触れ、企業主導の画一的なキャリアではなく、従業員主導の多様なキャリアの構築が必要になってきているとしています、第6章では、組織内の職務に関する行動を、OCB(組織市民行動)という考え方をベースに説明し、第7章では、個人が組織内で感じるストレスが、個人の心理・行動に与える影響について解説しています。

 第8章では、チーム・マネジメントについて、チームにはどのようなタイプがあり、チームを成功に導く条件は何かを述べ、第9章では、リーダーシップに関する基本的な考え方と研究の流れ、変革型リーダーシップについて説明しています。

 第10章では、組織において知識・スキルの習得がどのように行われるかを、組織学習という概念を用いて説明し、第11章では、組織変革がどのように行われているのか、その成功要件は何かを、第12章では、組織文化とはどのようなものかを解説しています。

 第13章では、組織的公正について、従業員のモチベーションや組織の生産性に対して与える影響とその重要性を説明し、第14章では、組織に新しく加入した人の行動を、組織社会化という概念で説明しています。

 第15章では、ダイバーシティ・マネジメントを取り上げ、ダイバーシティが注目される理由や、実際にダイバーシティ・マネジメントを行う際のポイントを説明しています。第16章では、プロフェッショナルを取り上げ、プロフェッショナルとは何か、それをどうマネジメントするかを解説しています。

 執筆陣の多くは若手研究者ですが、基本的な知識から最近の動向までよく網羅しています。また、読者に初学者を想定しているということもありますが、読みながら組織行動に関するイメージが描きやすいように書かれていると思いました。

 人事パーソンに求められる概念化能力とは、こうしたテキストを読んで概念を理解するだけではなく、実際に組織内で起きていることからそのエッセンスを抽出して統合的な概念とし、テキストで得られた概念との照合を通じて、具体的な事象の見方や対応に還元していくことではないかと考えます。そうした能力を養う上でも、こうしたテキストに触れてみるのは良いことだと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年5月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー