2019年07月18日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [162]『会社員が消える―働き方の未来図』

(大内伸哉 著 文春新書 2019年2月)

 

 近年、副業解禁や解雇規制の緩和といった議論が進み、採用選考指針の廃止、高度プロフェッショナル制度の法制化などが進んでいます。また、近い将来AIが多くの業務を担うようになり、雇用が激減するのではないかとの見方もあります。本書は、こうした一連の流れの中、これからの雇用はどうなるのかを、労働法学者である著者が予測し、さらに現状の課題を指摘したものです。

 第1章では、技術革新はビジネスモデルを変えるとともに、仕事も変えるとしています。会社員の「棚卸し」が始まり、定型作業はAIに代替され、人間に残された仕事は創造的で独創的なものとなり、そうしたスキルを持つプロ人材と機械の協働の時代になると。その結果、多くの雇用を抱える大企業は生まれにくくなり、企業中心の社会から、プロ人材がネットワークでつながる個人中心の社会になると予測しています。

 第2章では、そうした中、これまでの働き方の常識は通用しなくなり、日本型雇用システムも変わらざるを得ないだろうとし、そもそも日本型雇用システムとは何かを振り返り、正社員の雇用はなぜ守られてきたのかを説明しています。さらに、プロ人材になるとはどういうことかを考察し、雇用は自分で守らなければならなくなり、個人に求められるのは、自分の能力を発揮できる転職先を見つける力であるとしています。

 第3章では、働き方の未来を予測しています。テレワークのメリットは大きいが、なかなか普及しない背景には法制度の壁があることを指摘しています。また、テクノロジーで従業員の健康状況を把握する"健康テック"や、人事にAIを導入する"HRテック"のメリット、デメリットについて考察し、先端技術を活用してフリーで働くのが理想的な働き方になるためには何が必要か、問いを投げ掛けています。

 第4章では、会社員と個人自営業者の間には、現状ではさまざまな格差があり、企業に帰属しない働き方をサポートするための新たなセーフティネットが求められるとし、自助を支える公助や共助としてどのようなものが考えられるかを考察・提案しています。

 第5章では、人生100年時代に必要なスキルとは何か、副業という視点からの適職探しを勧めるとともに、学ぶとはどういうことか、創造性とは何かを考察しています。この章は、主として若い読者向けに書かれたものと言えるのではないかと思います。

 「AIが雇用を奪う」的な内容の本はこれまでも多く刊行されており、何冊か読みましたが、いずれも単にトレンドウォッチング的で、週刊誌やビジネス誌の記事をまとめ読みしたような印象でした。その点、本書は、労働法学者として視点が一本の軸としてあった上で、新しい働き方が広がるには何が課題か、何をしなければならないかを、自助・公助・共助のそれぞれの観点から分析・提案しており、これからの個人と企業の関係の在り方を探っていく上でも示唆に富むものでした。

 しいて言えば、プロ人材になり切れなかった人はどうすればいいのか、そのあたりが見えないのが、個人的にはやや難点だったしょうか(とりあえず、今のところあらゆる可能性に満ちている、若い人に向けて書かれているということか?)。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年3月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
   
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー