本書の著者の一人であるサイモン・シネックは、2009年に行ったTEDトークにおいて、「WHY」(個人や集団の存在意義、組織が何を表しているか)という概念の重要性を説き、その概念を掘り下げたのが、前著『WHYから始めよ!』(2012年/日本経済新聞出版社)でした。本書はその実践編とでもいうべきものです。
彼の主張は、社会を巻き込む力を持つリーダーに共通するのは、思考を「WHAT(何をするのか)」からではなく「WHY(なぜそれをやっているのか)」から始めるという点であるというものでした。「本物のリーダー」は、私たちに「WHY(理念と大義)」を語り、それこそが組織の内外の人たちのやる気を起こさせるが、「形式上のリーダー」は「WHAT(結果)」だけを語ってしまうと指摘しています。
本書では、まず第1章で、『WHYから始めよ!』で示したゴールデン・サークル(WHY-HOW-WHAT)という概念モデルで、WHYから始めること、WHYを知ることの利点を説明し、第2章で、WHYを見つけるためにはどのようなプロセスを踏めばよいのかを解説しています。さらに第3章では、〈個人〉が自分自身のWHYを見つけるための段階的プロセスを説明しています。
第4章では、〈組織〉のためのWHYを見つけるために、その準備としてのユニット(グループ)アプローチについて解説し、第5章では、実際にワークショップを実施する上での具体的手順を示しています。ここでは、WHYを見つけるプロセスにおいて、グループをどう導けばよいかを述べています。
第6章では、WHYを現実のものとするための行動、HOWについて書かれています。WHYは目的地であり、HOWはそこへたどり着くための経路を意味します。第7章では、自分のWHYを生き、実行するにはどうすればよいかを説明しています。
リーダーを目指す人にとって啓発的な内容であるとともに、個人だけでなく組織をも対象とすることで、〈組織開発〉的な内容となっているように思います。
本書のアプローチを、個人に応用するにはまずパートナーを見つけることが、組織に応用するにはまずファシリテーターを見つけることが最初のステップになるということですが、個人や組織をそのWHY(存在意義)に導いてくれるパートナーやファシリテーターを見つけるのが、ややハードルが高いようにも思いました。とは言え、ワークショップの進め方などは、組織開発における従来の手法などに通じるところがあったようにも思います。
要所ごとにパートナー・セッションやファシリテーター・セッションといった解説があり、巻末にもパートナー、ファシリテーターのそれぞれに対するアドバイスが付されていることからもうかがえるように、本書を読んだ人がまず自らパートナーやファシリテーターになってみることを推奨しているのでしょう。
そもそも日本人は、グループで集まって自分の本心を語るということが苦手なような気もします。一方で、「組織開発」は今また何十年かぶりに注目を集めています。こうした個人や組織の根本的な存在意義を問い、それを共有化するというワークショップが、今後どれくらい日本に浸透するのか注目したいと思います。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年3月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー