2019年05月21日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [158]『次世代型組織へのフォロワーシップ論―リーダーシップ主義からの脱却』

 

(松山一紀 著 ミネルヴァ書房 2018年10月)

 

 本書は、戦略的人的資源管理論や組織行動論を専門とする著者が、リーダーに比べこれまでネガティブなレッテルが貼られてきたフォロワーに注目、フォロワーは自律的貢献の主体者となり得るとし、日本的なフォロワーシップとはどのようなものかを探求しています。

 全7章の構成で、第1章では、人事労務管理の歴史を振り返り、日本をはじめ先進国では今、フォロワーたる労働者の地位が向上してきているとしています。一方で、組織のリーダーは疲弊し、リーダーを目指す若手も減って、リーダー偏重の組織運営は限界にきており、今こそフォロワーに注目し、真摯なフォロワーシップ論を展開すべきであるとしています。

 第2章では、フォロワーとは誰のことなのか、フォロワーは何に従い、また、なぜ従うのかを調査などを基に考察しています。第3章では、フォロワーシップとは何かを、バーナードなどの古典的な研究を踏まえて考察し、さらに、現代のフォロワーシップ論について、役割理論アプローチと構造主義アプローチの観点から、その主要な研究を紹介しています。

 第4章では、日本におけるフォロワーシップについて、海外の研究者らの「忠臣蔵」や「葉隠」を取り上げた研究を紹介し、日本的フォロワーシップと日本人特有の忠誠心について考察。その心理的メカニズムとしての"観我"と"従我"を想定した「観従二我論」という著者なりの理論を提唱しています。

 第5章では、これまでの議論を踏まえて、「受動的忠実型」「能動的忠実型」「統合(プロアクティブ)型」という、わが国における三つのフォロワー・タイプを抽出し、統合型のプロアクティブ性が、モチベーションおよびメンタルヘルスにポジティブな影響力を有するとしています。

 第6章では、日本人に最も多いと考えられる能動的忠実型フォロワーに注目し、その特徴ともいえる、メンタルヘルスに対する好ましくないインパクトについて考察しています。

 第7章では、これまでの議論を振り返りながら、日本人特有の心理構造や組織との関係性を検討し、フォロワーシップ・マネジメントを日本的HRMに応用すると、採用や配属、異動や人材開発などはどうなるか、また、フォロワーシップ・マネジメントがリーダーや管理者を置かないことを理想とするならば、進化型組織とはどのようなものになるかを展望しています。

 役割理論アプローチのところで紹介されているケリーの五つのフォロワー・タイプや、チャレフの四つのフォロワー・タイプなどは比較的よく知られているものと思います。一方で、「忠臣蔵」や「葉隠」が海外でフォロワーシップ研究の対象となっていることは、本書で初めて知りました。

 日本でこれまでほとんど議論されてこなかったフォロワーシップについて取り上げ、観我と従我という心理的メカニズムを基に日本型のフォロワー・タイプの類型を提唱し、日本人の精神に適合したマネジメントを探っていている点が本書の特徴です。

 思えば、リーダーシップ理論もこれまで"輸入モノ"ばかりだったような気がしなくもないです。今後、こうした「日本型フォロワーシップ」の研究はもっと盛んになっていいのではないかと思います。その嚆矢(こうし)であろうとする意気込みが感じられる本でした。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2019年1月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
   
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー