2019年04月23日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [156]『組織開発の探究―理論に学び、実践に活かす』

(中原 淳/中村和彦 著 ダイヤモンド社 2018年10月)

 

 今また何十年かぶりに注目を集めている「組織開発」ですが、本書は、組織開発の初学者がその概略について理解を深め、組織開発の経験を持つ実践者がその思想や歴史を理解し、さらに、組織開発に関心のあるすべての人が実践について理解し、自社でのアクションのヒントを得ることができることを目的に書かれた本であるとのことです。

 全5部構成の第1部は「初級編」であり、第1章で、初学者向けに組織開発とは何かを解説し、第2章で、組織開発を知るための手掛かりとして、組織開発のステップや実践モデルを示すとともに、企業内組織開発においてありがちな「生々しいリアリティ」をまとめています。

 第2部と第3部は「プロフェッショナル編」として、組織開発の歴史と発展の歩みをたどっています。第3章では、組織開発を支える「3層モデル」を提唱し、その第1層としての「組織開発の考え方」の哲学的な基盤を、ジョン・デューイのプラグマティズムやフッサールの現象学、フロイトの精神分析学などに求めて解説しています。

 第4章では、「3層モデル」の第2層としての「組織開発の方法」の基礎となったものとして、心理劇(サイコドラマ)とゲシュタルト療法の二つの集団療法について解説し、第5章では、組織開発を支える経営学的基盤に、テイラーシステムや人間関係論、行動科学があったとしています。
 さらに第6章では、「3層モデル」の第3層として開花した独自手法として、1940年代のクルト・レヴィンの社会実験から始まったTグループや、感受性訓練(ST)、エンカウンターグループなどを解説しています。

 ここまでがいわば組織開発「前史」であり、第3部・第7章では、1950年代から1960年代にかけての組織開発の誕生からその初期までを追い、第8章では、70年代、80年代、90年代と、組織開発がどのような変遷を遂げたかを述べています。
 第9章では、日本における組織開発の歴史をたどり、第10章では、アメリカで組織開発と「似て非なるもの」が「自己啓発セミナー」として暴走し、日本でも1980年代後半から流行して、「マインドコントロール」としてマスコミでも取り上げられた経緯を紹介。第11章では、2000年代に入って組織開発が見直され、対話型組織開発などの新手法も生まれ、組織開発が再びブームとなるまでを解説しています。

 第4部は組織開発のケーススタディ編で、キヤノンやヤフーなど先進5社の組織開発の取り組み事例が紹介され、第5部は、「組織開発の未来」についての両著者の対談となっています。

 タイトルに「探求」とありますが、組織開発とは何かについて書かれた第1部と、組織開発の歴史と発展について書かれた第2部、第3部で大部分を占め、第4部もケーススタディであることから、テキスト的な本であると言えます。ただし、組織開発の歴史を、1890年代からの組織開発につながるであろう思想や哲学の誕生にさかのぼって解説しているのはユニークであり、そうした意味で「探求」ということになるのかもしれません。

 組織開発というもののイメージをつかむには良い本であり、組織開発の歴史に関する知識も、それに携わる人が素養として持っていて無駄ではないと思います。実践面の解説がやや弱い印象もありますが、第5部の対談で、社内のどの部署が組織開発を推進するのかといったことなども議論されていて、最後まで関心を持って読めた本でした。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年12月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
   
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー