本書は、世界最大級の動画ストリーミング配信事業会社ネットフリックスにおける先進的な人事戦略について、同社で長年CHO(最高人事責任者)を務めた著者がまとめた本です。
本書で紹介されているネットフリックスの人材管理手法が前提としているのは、従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、やる気と満足度を上げるための制度を導入することが人材管理であるという従来の一般的な考え方ではなく、リーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる優れたチームをつくることであり、そのために、まず従業員に一貫して取ってほしい行動をはっきり打ち出し、それを実行するための規律を定着させる、「自由と責任の文化を築く」ことであるとの考えです。
第1章では、チームが最高の成果を上げるには、メンバー全員が最終目標を理解し、その目標に達するために思うまま創造性を発揮して問題解決に取り組めるようにしなければならず、チームのやる気を最大に高めるのは、ともに切磋琢磨できる優れたチームメンバーがいることである、としています。
第2章では、従業員一人ひとりが、自分の任務だけでなく、事業全体の仕組みや会社が抱える課題を理解することが大切で、そのためには、経営陣と従業員の双方向のコミュニケーションが常に必要であるとしています。第3章では、従業員は事業や自分の業績についての真実を聞く必要があり、またそれを願っているとしています。第4章では、意見を育み、事実に基づいて議論を行うことの重要性を説いています。
第5章では、徹底して未来に目を向け、未来の理想の会社を今からつくり始めるべきであって、変化に素早く対応するために、将来必要となる人材を今から雇うべきであるとしています。第6章では、採用担当者の最も重要な仕事は、ハイパフォーマーを採用することであり、人材定着率はチームづくりの成功指標にはならず、最も良い指標は、すべての職務に優れた人材を配置できているかどうかであるとしています。第7章では、その人材が会社にもたらす価値を基に報酬を決めるべきであって、会社の成長のカギを握る職務に携わる人材には、その分野のトップレベルの給与を支払うことを検討すべきであるとしています。
第8章では、「積極的に解雇する」というのもネットフリックス文化の一つであり、必要な人材変更を迅速に行うことが重要で、過去に多大な貢献をした人でも、持っているスキルが会社に必要なくなれば解雇せねばならないとします。また、円満な解雇のためには、その会社で働いていたことを誇れるような組織にすることが大事であるとしています。
従業員に自分のキャリアは自分でコントロールすることを求め、会社として従業員のキャリア開発をすることはせず(むしろ定期的に他社の面接を受けることを奨励している)、人事考課も経費規定もなく、休暇も自由裁量――ネットフリックスのこうした進歩的な人事管理手法は、米国企業の間でさえ自社では導入できないといった声が少なからずあったとのことです。それでも、「従業員を大人として扱う」という考え方は、これまでの日本的経営における会社と従業員の関係の在り方が見直しを迫られている中で、ある種の啓発的なヒントを与えてくれるように思いました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年10月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー