2019年01月22日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [151]『「優良企業」でなぜ過労死・過労自殺が?―「ブラック・アンド・ホワイト企業」としての日本企業』

 

((野村正實 著 ミネルヴァ書房 2018年8月)

 

 一般にブラック企業とは、新興産業で、若者を大量採用して過重労働・違法労働で使いつぶし、次々と離職に追い込む企業とされています。しかし、従業員を過労死・過労自殺まで追い込むのはこうした企業だけではなく、例えば女性新入社員の過労自殺事件があった大手広告代理店などは、権威ある人気企業であって狭義のブラック企業には当たらず、それ以外にも過労死・過労自殺は一流企業で多く発生しています。こうした状況を捉え、本書では「ブラック・アンド・ホワイト企業」という概念を提起しています。

 著者によれば、世間体が良くて高給だが労働条件が劣悪であるという、ブラックな部分とホワイトな部分の両面を持つ企業がブラック・アンド・ホワイト企業であり、実は日本の大手企業の大半は、このブラック・アンド・ホワイト企業に当てはまるとのことです。そこで本書は、なぜ世間で一流とされている企業の多くが、こうしたブラック企業的特性を持たざるを得なくなったのかを考察しています。

 第1章では、日本企業独特の定期採用について、第2章では入社式と新入社員研修について文献等から考察し、それらが諸外国と比較して極めて特異な性質のものであることを指摘しています。そして、第3章において、日本企業は共同体(ゲマインシャフト)的上部構造と利益組織(ゲゼルシャフト)的土台から成り、ブラック・アンド・ホワイト企業は共同体的上部構造を利用しながら利益組織という本質を実現するとしています。

 さらに第4章では、日本企業の「労働組合」の多くは実は労働組合ではなく、会社の一部としての「従業員組合」であるとし、この従業員組合について歴史的に俯瞰した上で、経営と未分化な従業員組合が、共同体的上部構造が支配的なものとなる要因となったとしています。続く第5章では、その結果として、会社が従業員の全時間を掌握することになり、その行き着く先がブラック・アンド・ホワイト企業であったとしています。

 つまり、ブラック・アンド・ホワイト企業が求めるものは「24時間の企業人」であり、その入り口が定期採用であり、会社への従属感は入社式・新入社員研修で決定的となり、その人の主体的行動が自ずから会社の利益組織的土台と共同体的上部構造に寄与することになると。社風を内面化した従業員にとっては会社は"いい会社"(ホワイト企業)だが、「24時間の企業人」になると労働時間は無限になり、限界の手前で止まれず、過労死・過労自殺が起きる――これが、ホワイト企業と思われていた会社で過労死・過労自殺が起きる、ブラック・アンド・ホワイト企業の論理であるとのことです。

 「24時間の企業人」が、会社を責めずに自らの至らなさを遺書に書いて自殺するような異常な事態の背景には、ブラック・アンド・ホワイト企業が日本社会の旧来の価値観と慣行を再生産しているという実態があり、さらに、会社人間を「企業戦士」と呼ぶような、日本における異常なまでの精神主義にも問題があるとしています。

 著者は、過労死の防止では罰則規定の整備などの法改正を進めるべきだとしつつも、法改正が進んでも、日本の会社や社会が有する歴史的体質のため、現実の改善はゆっくりとしか進まないだろうとしています。そうした歴史的見地から日本企業の在り方を見直してみるのも必要かと思いました。「日本企業論」として説得力がありました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年10月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー