本書は、フレデリック・ラルー著『ティール組織』(2018年/英治出版)で提唱されている「ティール組織」とはどのようなものであるか、これまでちまたで次世代型組織と言われてきた「ホラクラシー組織」とはどのような関係にあるのかを解説した本であり、著者は、日本初のホラクラシー認定ファシリテーターであるとのことです。
1章では、『ティール組織』の中で示されているレッド、コハク、オレンジ、グリーン、ティールの五つの組織モデルの概要を紹介するとともに、次世代型組織に当たるティール組織の、①進化する目的(エボリューショナリーパーパス)、②「自主経営」が可能となる仕組みを有していること、③個人としての全体性の発揮(ホールネス)――という3要点について解説しています。さらに、ホラクラシー組織とはティール組織の一形態であるため、ティール組織同様、「社長や役員、部長等の役職自体を持たずに、組織の目的実現に向けてメンバーが進むことができるような独自の仕組みや工夫が溢れている」のが特徴であるとし、ホラクラシー組織における「進化する目的」「自主経営」「個人としての全体性の発揮」とは何かを解説しています。
2章では、五つの組織モデルのうちオレンジ組織、グリーン組織、ティール組織について、それぞれをトップダウン型組織(オレンジ)、ボトムアップ志向の組織(グリーン)、次世代型組織(ティール)と位置づけ、その移行の際の要点を解説しています。さらに、著者自身がボトムアップ志向の組織と次世代型組織との間に距離を感じたことから、グリーン組織からティール組織への移行段階で、役職は残しまま次世代組織への土台をつくる「プレティール組織」という概念を設定しています。
3章では、上記した次世代型組織の3要点を形づくる土台として必要な、①心の奥底の想いに気付き、互いに対話する、②目的地図と重要指標の透明化、③行動と目的の循環サイクル――の三つについて解説しています。
4章では、次世代型組織の事例として、『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社の事例を紹介し、5章では、次世代組織の土台づくりにつながる事例として、従来のマネジャーをなくし、"カタリスト(媒介役)"という役割を設定したベンチャー企業の事例などを紹介しています。
ティール組織に関する解説は、『ティール組織』の著述に準拠しているため、同書の解説になっていると言えます。一方、ホラクラシー組織については、著者自身がティール組織の考え方との融合を試みたとも言えるのではないかと思います。ティール組織やホラクラシー組織の基本概念を整理し、その要点を理解するには良い本だと思います。
本書の事例編で、次世代型組織(ティール組織)の事例として紹介されているのは『ティール組織』でも取り上げられていたザッポス社のみですが、著者が設定した「プレティール組織」という概念に該当する「次世代型組織の土台につながる事例」としては、日本企業やNPO法人などいくつかの事例が紹介されています。ただし、いずれもティール組織というよりホラクラシー組織の事例解説となっているように思いました。
ティール組織に該当する企業の実例がまだ少ないため、理解しようとする側にとっても抽象的なイメージになりがちなところ、「プレティール組織」という過渡期的な概念を用い、事例を紹介して解説していますが、それらがティール組織とはどのようなものかを理解する上で助けになった面もある一方、ティールとホラクラシーの両概念が混在してやや複雑になった印象も受けました。
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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年10月にご紹介したものです。
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー