2018年11月21日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [147]『残業の9割はいらない―ヤフーが実践する幸せな働き方』

(本間 浩輔 著 光文社新書 2018年7月)

 

 ヤフー上級執行役員として数々の人事施策を提唱してきた著者が、「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の働き方改革論を述べた本です。

 第1章では、ヤフーが導入した「週休3日制(選べる勤務制度)」を例に、働き方改革の本質や目的について述べています。著者は、この「週休3日制」という制度の裏側には「成果主義の徹底」というコンセプトがあり、「時間にとらわれずに自由な働き方をしてください。だけど会社はあなたの成果をもとに評価しますよ」というのが、ヤフーの進める働き方改革にほかならず、つまり、働き方改革と成果主義は表裏一体であるとしています。また、「企業が成長しなくてはならないのは、企業の幸せと社員の幸せのため」とし、働く社員が幸せになれない企業が長期的に成長するのは難しいとしています。

 第2章では、週休3日制のほかに、テレワーク、1 on 1ミーティング、新幹線通勤、サバティカル制度など、ヤフーが採り入れている制度と、そのバックにある考え方を紹介しています。また、こうした制度の成否のカギを握るのは、職場の上司など、現場の人事力であるとしています。

 第3章では、働き方改革がうまくいかない原因の一つは、成果主義の不徹底にあるのではないかとしています。部下を成果ではなく貢献で評価していないか、「頑張っている」は評価に値するか、チームワークは大切か、といったさまざまな問い掛けをしつつ、頑張れば報われるという日本の文化や精神、同質的チームワークが重視され、その中でキャリア自律できていないビジネスパーソン――といった日本の企業社会に特徴的な現象とその背景を読み解いています。

 第4章では、働き方改革を成功に導くための条件は現場の人事力を磨くことであるとし、企業経営者はもっと人事に関心を持つことが大事であるとしています。人事担当者に向けては、人事制度の抜本的な改革が求められ、そのために必要なものはデータとファクトであり、「データによる経営判断」は「権威主義」の反対語であると。また、人事こそ働き方改革をすべきだとし、さらにマネジャー層に向けては、「プレイングマネジャー化」に逃げてはならないとしています。

 終章では、30年後の未来を予測し、そのころ日本の社会や企業はどのように変化し、人々はどのように働いているかを予測して、人生100年時代の生き方を展望しています。

 以上のように、第1~2章でヤフーの制度を紹介しながら、その背後にある考え方を説明し、働き方改革のあるべき方向を論じています。さらに、第3章で、働き方改革を進めていく上で、現在の日本の企業や社会が抱える課題を文化論的な視点も交えながら読み解き、第4章では、日本のビジネスパーソンのこれからの働き方、生き方までも考察するというように、単に自社の制度の紹介にとどまらず、大局的見地に立った啓発書になっています。

 文中で紹介されている人事関連の書籍なども、人事における"定番"から近年の"トレンド"を代表するものまで押さえており、人事の現在とこれからを考えるうえで参考になります。働き方改革関連の本が少なからず刊行されている中で、人事の重要性をここまで明確に説いた本は少ないのではないでしょうか。人事パーソンにマインドセットを促す本であると思います。

<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります

 

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年8月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー