2018年10月09日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [144]『なぜ、御社は若手が辞めるのか』

 

(山本 寛 著 日経プレミアシリーズ 2018年6月)

 

 本書は、データや退職者の生の声を基に、若手が辞めていく会社はどこに問題があるのか、社員を定着させるためにはどのようなマネジメントが求められるのかを探った本です。

 第1章では、8割の上司が「辞めてほしくない部下」の離職を経験しているというデータを示し、退職が退職を生む「連鎖退職」や、若手がある日突然出社しなくなる「衝動的離職」といった問題を取り上げ、ハイパフォーマー社員が辞めた時の損失の実態を分析。それらを踏まえ、社員を「辞めさせない」ためのマネジメント(リテンション・マネジメント)の必要を説いています。

 第2章では、データやインタビューから若手・中堅の転職事情(退職を選ぶ理由等)を探り、悩みつつも辞めなかった人の本音も聞いて、辞めた社員との比較から見たリテンションのポイントとして、「働きがい」「会社の姿勢方針」「人間関係の良し悪し」を挙げています。

 第3章では、社員が辞める会社と辞めない会社の違いがどこにあるのかを分析し、「人を大切にする」「風通しが良い」社風の下では社員は辞めにくいとしています。その上で、「社員が辞めない会社」の組織風土とはどのようなものか、部下が辞めるのは上司の問題なのか、などをインタビューやデータから分析しています。社員の声と企業の声を比較すると、「適切な配置」の重要性について両者の考えは一致する一方、社員が重視するのは「給料」であるのに対し、会社が重視する「研修」については、社員は「教育は特に求めていない」というのが本音で、また、給与で大事なのは「納得感」であるとしています。

 第4章では、実際に社員定着のためにできることは何か、リテンション・マネジメントのポイントとして、①採用、②異動と「適性配置」、③報酬、④評価の仕方や方針、⑤労働時間、⑥研修、⑦福利厚生、⑧キャリア形成支援、⑨組織や職場でのコミュニケーション施策、⑩きめ細やかな退職管理などを掲げ、それぞれについて働く人や人事部の声を拾い、また、ポイントごとに企業の取り組み事例を紹介しています。

 第5章では、アンケート調査などを踏まえた上で、働き方改革とリテンションの関係について考察し、「副業OK」で会社の魅力は高まり、会社にもメリットをもたらすとしています。また、働き方改革には、「働きがい」と「働きやすさ」の二つの軸があるとして、ある企業の取り組みを。この2軸に沿って紹介しています。

 統計データやアンケート調査をフルに使い、働く人の生の声も多く取り上げて課題を抽出・整理しているため、分かりやすく説得力もあります。また、リテンション・マネジメントに取り組む会社の事例も数多く紹介されていて、実務上もある程度参考になると思います。一方で、分析がオーソドックスである分、分析結果にさほど目新しさはなく、また、紹介されている事例の数が多い分、一つひとつはやや掘り下げが浅い印象も受けました。

 リテンション・マネジメントのポイントを概観・再確認するには良い本であり、人事パーソンのみでなく、現場の上司(マネジャー)が読んでも啓発効果があると思われる点では、新書の特性を生かしているかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年6月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー