2018年04月27日掲載

企業ZOOM IN⇔OUT - クラウドワークス

多様な働き方を社員自ら実践できる新人事制度「ハタカク!」

先進的な取り組みをしている企業の現場をレポート

[企業ZOOM]INOUT

会社概要:2011年設立、2014年12月マザーズ上場。"働き方革命"をビジョンに掲げ、世界中の企業と個人がインターネット上で直接つながり、仕事の受発注を行うことができるクラウドソーシングサービス「クラウドワークス」を提供する。

本社:東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー6階
資本金:17億6495万円
社員数:126人
<2017年3月現在>
https://crowdworks.co.jp/

取材対応者(取材当時)
執行役員 佐々木翔平氏
取材・文/滝田誠一郎(ジャーナリスト)

1.多様な働き方を実践できる「ハタカク!」


 クラウドワークスは、仕事を依頼したいクライアントと、多様なスキルを持った働き手であるユーザー(クラウドワーカー)のオンラインマッチングを図る日本最大級のクラウドソーシングサービス企業である。クライアント数は上場企業を含む約23万社に達し、内閣府や経済産業省、国土交通省など40以上の行政関連団体も利用している。登録ユーザー数は実に179万人を数える(2018年1月現在)。依頼できる仕事の種類はシステム開発、アプリ開発、ロゴマークやチラシのデザイン、記事作成、翻訳・通訳など200種類以上に上る。
 2016年7月、同社では、多様な働き方を社員自ら実践できる新人事制度として「ハタカク!」を導入した[図表1]

[図表1]人事制度として「ハタカク!」のコンセプト

 「ハタカク!」とは"働き方革命"の略であり、骨子は以下の三つからなる。

①リモートワーク:部署・業務に関係なく全従業員がオフィス以外の場所で就業可能

②副業の自由化:さまざまな業務に携わることで、業務経験やスキルを向上

③フレックスタイム:ライフイベント・ライフスタイルに合わせて柔軟に勤務時間を選択

「弊社は"働き方革命"をビジョンとして掲げ、個人が自由に働き方を選択できる社会の実現を目指しています。弊社が手掛けているクラウドソーシングサービスでは、インターネット上で仕事の受発注から報酬の受け渡しまでが完結し、個人は時間と場所にとらわれない新しいワークスタイルを実現できます。こういったビジョンを掲げ、サービスを提供している弊社こそ、率先して働き方改革に取り組み、多様な働き方を実現していくべきだと考え、2016年に『ハタカク!』を導入しました。社員が柔軟に働き方を選択し、個の力を活性化するという働き方革命に自社で取り組むことで、そこで得られた知見を事業に還元し、競争力の源泉につなげるという狙いもありました」(佐々木氏。以下、発言はすべて同氏)

2.働く場所を自由に選択できるリモートワーク


[1]リモートワークの概要
(1)最大週3日まで利用可能
 「ハタカク!」の1本目の柱であるリモートワークは、最大で週3日まで自由に利用可能となっている[図表2]。月曜日は全社員参加の朝会があるため、リモートワークは基本的に不可(朝会出席後のリモートワークは可)としているが、火曜日~金曜日は自由に利用できる。例えば、「月曜日に出社して火曜日~木曜日までリモートワーク、金曜日は出社して土日休み」、あるいは「月曜日~水曜日まで3日間は出社して、木曜日と金曜日にリモートワーク」というように、個人の裁量で自由な働き方が可能となっている。

[図表2]リモートワークの内容

日数

・最大週3日まで自由に利用可能

・朝会開催日(基本毎週月曜日※祝日の場合は翌日)には出社必須(ただし、朝会後のリモートワークは可能)

場所

・緊急時に6時間以内に出社できる場所であれば、働く場所は問わない

対象社員

・全職種(エンジニア職、事務職、営業職)、全社員

就業要件

・試用期間が終了している(新卒は入社後6カ月)

・快適にリモートワークができる通信環境を持ち合わせている

・リモートワークについて上長の承認を得ている

申請・承認手続き

・前日までにスケジュール表に予定を書き込むことを要する

・事前に上長の承認を得る

連絡

・リモートワーク中は常に連絡が取れるようにしておく

・勤怠連絡はオフィスワーク同様に入力システムで行う(始業、終業については要連絡)

・社内外にかかわらずチャットツール(Slack)を用いて、コミュニケーションを取る

セキュリティ

・セキュリティ研修を受け、「秘密保持に関する誓約書」を提出している

・必ず会社支給のパソコンを使用する

・自己所有のWi-Fiを使用する(フリーWi-Fiは使用しない)

・のぞき見防止シートを使用する

その他

・リモートワーク勤務に伴って発生する光熱費、通信費等の整備費用は、原則自己負担

・通勤交通費は従来どおり全額支給

・リモートワークの実施によって著しく成果が落ちた場合は、上司の判断で利用不可となる場合がある

(2)社員間のコミュニケーション
 リモートワークは原則全職種、全社員が利用できる。入社したての新入社員であっても利用することができる(ただし、新卒社員は入社後6カ月を試用期間としており、仕事のフローを理解し、一定の信頼関係を築く必要があるためリモートワークは認めていない)。部下を管理監督する立場にある管理職もリモートワークが可能である。
「部下がリモートワークをしているから、あるいは管理職自身がリモートワークをしているから部下とのコミュニケーションが取りづらい、部下の管理監督がしづらいといった声はありません。弊社では、社内にいても社外にいても、チャットツールを利用してコミュニケーションを取るようにしています。部門やプロジェクトごとにチャットを作成でき、会話の履歴が文字として残るため、コミュニケーションが不自由になることはありません。むしろ、今まで口頭での曖昧(あいまい)なやりとりだったものが、記録として残るため、コミュニケーションの齟齬(そご)は少なくなりました。他にも、テレビ会議などのツールを使うことで、リモートワークをしていても部下とコミュニケーションを取り、仕事ぶりをきちんと把握できます」

(3)スケジュール表でリモートワークの予定を共有
 いつリモートワークをするかは本人の自由で、ネットワークで共有している全社員共通のスケジュール表に、前日までにリモートワークの予定を書き込むことを要件としている。その結果として、部署によってはメンバーの半数以上がリモートワークで出社しない日もあり、特にエンジニア部門では決して珍しくないという。
 全社員が参加する月曜日の朝会以外にも部単位、グループ単位でのミーティングなどもあるため、必要に応じて上司との間で個別に調整が必要になることもある。個別に調整する煩わしさを避けるため、例えば火曜日を「ミーティングの日」と決めて、この日にミーティングをまとめて行うのでメンバーは全員出社するというルールを独自に決めているグループもある。
「エンジニアは一度に集中して作業をするので、合間にミーティングが入り、その都度作業を中断する必要がある状況だと効率が悪くなります。ですから、グループによっては集中的にミーティングを行う曜日を決めて、その日はメンバー全員が出社するという独自ルールを取り入れることで、それ以外の日にリモートワークを利用して自宅にこもり、自らのペースで集中的に作業することができるようと工夫して運用しています」
 リモートワークをする前日までにスケジュール表に書き込むのがルールだが、当日の朝に書き込み、その日はそのままリモートワークという例外的なケースもある。子どもが急に熱を出した、社員本人の体調がすぐれない、あるいは電車が止まってしまったなど、何らかの突発的な出来事や緊急事態が発生した場合には、前日までにスケジュール表に書き込んでいなくても、上司の判断でリモートワークを認めることがある。

[2]運用上のルール
 前日までにスケジュール表に予定を書き込み、上長への承認を得ることが要件だが、リモートでの働き方についてはいくつかのルールが定められている。
(1)6時間以内にオフィスに出社できる場所であること
 リモートワークの予定をスケジュール表に書き込む際に、どこで仕事するかを明記する必要はない。ただし、緊急のトラブルなどで急遽出社する必要があるといった事態を想定して、6時間以内に出社できる場所であることをルール化している。
 実際には、リモートワークだからといってわざわざ遠隔地に足を伸ばして仕事をするようなことはなく、自宅や喫茶店などで仕事をするケースが圧倒的に多いという。
「きちんと調べたわけではありませんが、自宅で働いている人が大半だと思います。自宅以外でも、近くの喫茶店や図書館で作業をしている人や、最近増えてきたコワーキングスペースを利用しているという人もいます。喫茶店のコーヒー代、コワーキングスペースの利用料などはすべて自己負担になりますが、自身が一番集中できる環境で仕事をしていると考えられます」

(2)リアルタイムで連絡がつくこと
 先述したように、同社ではコミュニケーションにチャットツール「Slack」やテレビ会議用のツールを活用している。そのため、スムーズにインターネットに接続できる環境が整っていて、リアルタイムで連絡がつき、コミュニケーションを取れる場所であることが必須条件になっている。
 また、勤怠の連絡もオフィスワークと同様に入力システムを利用しており、始業・終業の報告(チームによっては休憩時間も)をするためにも、リアルタイムに連絡が取れることは重要となる。当然のことながら、仮にパソコンが必要ではない作業であっても、パソコンは必携ということになる。

(3)セキュリティに留意すること
 リモートワークをする際には、機密情報の漏えいなどが問題となり得る。そこで、セキュリティに関して、①必ず会社支給のパソコンを使用する、②自己所有のWi-Fiを使用する(フリーWi-Fiは使用しない)、③のぞき見防止シートを使用する――という三つのルールを定めている。
「リモートワークの時に使うパソコンは会社支給のものに限り、ハードディスクを暗号化するソフトを入れること、紛失した場合に備えてリモートで制御できるソフトを入れることなどをルール化しています。また、喫茶店などではフリーWi-Fiサービスを提供していることがありますが、安全性を担保できないため使用禁止とし、自己保有のポケットWi-Fiに限って使用を認めています。不特定多数の人がいるような環境で作業する場合もあるため、後ろから画面をのぞかれても平気なように、画面にはのぞき見防止フィルムを貼ることなども社員に義務づけています」

(4)リモートワークの内容を日報に書くこと
 同社では1日の終わりに全社員が日報を書き、それをネット上にアップするというルールがある。リモートワークの場合も同様で、日報をネット上にアップすることを必須としている。アップされた日報は上司やグループのメンバーが見られるのはもちろん、全社員が閲覧可能になっている点がユニークといえる。

[3]リモートワークによる生産性向上
 「ハタカク!」の導入から1年半が経過したが、リモートワークの利用状況は職種によって大きく異なる。エンジニア職に限ると6~7割の社員が平均して週1~2回の頻度で利用しているという。利用率、利用頻度ともに極めて高い。
 事務職の利用率はエンジニア職と比べて低く、営業職の利用率はさらに低い。利用率の差は職種ごとの仕事の仕方による。エンジニアのような専門職にとってリモートワークは適した働き方であり、当然ニーズも高い。エンジニア職に比べると、事務職はリモートワークを利用する必要性がさほど高くない。出社して同じグループ内や他の部署の社員たちと連携し、調整しながら職務を遂行したほうが効率的であることも多い。営業職に至っては、家にこもっていたのでは仕事ができないケースまである。
「エンジニア職以外では、毎週少なくとも1回はリモートワークをしているという社員は1割前後だと思います。営業職の中には、リモートワークを1回も利用したことがないという社員も少なくありません。職種によって、それぞれに適した働き方があるといえます」
 実際に利用するかどうかは別にして、このような制度があることによって働き方の選択肢が増え、それが社員心理に好影響を与えていると佐々木氏は分析する。
「日常的に利用していなくても、何かがあった時にリモートワークが使えることで、社員にとっての働きやすさが向上しています。実際に、『安心感につながっている』『自分で働き方を選択してポジティブに働ける』という声も聞かれます」
 社員にとっては働きやすい制度であっても、リモートワークによって、かえって生産性が落ちてしまえば、会社にとっては同制度を続ける意味を考え直す必要がある。実際には、多くの社員が「生産性が上がった」と感じているそうだ。
「実際に社員にアンケートを採ってみると、『生産性が上がった』と答えた社員は6割近くで、『生産性が下がった』と答えた社員はほとんどいませんでした。生産性が下がることはないという前提で導入したリモートワークが、実際には生産性の向上に寄与するというポジティブな結果になっています」

3.申請・承認を必要としない副業の自由化


[1]社員の判断で副業が可能
 「ハタカク!」の2本目の柱である副業の自由化の狙いは、①社外業務に携わることによるスキルや経験の幅の拡大、②自社のサービスの検証・改善――の二つである。
 同社では以前から、社員が申請し、上長が承認した場合に限って副業を認めていた。「ハタカク!」の導入に合わせて、「原則として申請・承認の手続きを必要としない」と改めた[図表3]。いわば"副業の自由化"を実現した格好である。
 旧制度では、部下から申請があった場合、上司は[図表3]に示す基準に照らして許可するか否かをケースバイケースで決めていた。「ハタカク!」導入以後は社員が自分で判断し、問題ないと思えば自由に副業が可能だが、自分で判断がつきかねる場合は上司に相談して承認を得ることをルールにしている。
「申請・承認が必要だと、いくら副業が可能とはいっても社員からすると申請しづらいものです。それならば、多様な働き方を実現するためには社員を信用して、申請と承認は不要にしたほうがいいだろうとアグレッシブに考え、原則として申請・承認の手続きはなしとしました。ですから、現在どれくらいの社員が副業しているかは正確には把握していませんが、社員の2~3割くらいが副業していると思います」
 社員の自己判断で副業することは可能だが、自由だからといって、どのような形態でも認められるわけではない。身体的・精神的な負荷の高い業務や公序良俗に反するもの、競業他社など一部については例外として禁止事項を設けている。また、休日を除いて週5時間以上に及ぶ場合、他社との雇用関係を結ぶ場合には申告を必須要件としている。

[図表3]副業に関する新旧比較

  新制度 旧制度
申請・承認の手続き

・上長への申請・承認は必要なし(禁止事項に抵触しないか各自が判断)

・上長に申請し、承認があった場合に副業可能(判断事項を基に上長が個別に判断)

要件 (新)禁止事項

・会社の業務に影響を及ぼす程度の時間、負荷のかかる業務

・賭博業、風俗業等、公序良俗に反する業務

・会社名、サービス名、その他業務を通じて得た情報を副業に使用すること

・競合他社など、会社と利害が反する副業先での業務

(旧)判断事項

・本業に支障がない範囲内(土日または平日の終業後2時間以内)に限る

・社内営業は不可(例・副業として社内で物を売ったり勧誘したりすること)

・クラウドワークスの社名、役職を利用した副業は不可
(例:クラウドワークスの広報部長だということを前面に押し出して広報コンサルタントをするようなケース)

・競合他社での副業は不可
など

その他

・休日を除き、週5時間以上副業に時間を使う場合、他社との雇用関係を結ぶ場合には申告が必要

 

[2]副業によるメリット
(1)副業での業務経験やスキルの習得が本業にも生かされる
 多様な働き方を実現する副業の自由化は、社員にとってメリットがあることはもちろん、同時に会社にとってもメリットがある。その一つが人材育成効果である。社内ではできない経験をすることで視野が広まり、新たなスキルを習得でき、結果として本業にも生かされることが期待できる。例を挙げると、映像等のコンテンツ制作のディレクターとして進行管理を担当している社員が、映像プロデューサーとして副業しているケースがある。当該社員は、「クライアントの立場になって、目に見えない要望を見極められるようになった。本業の制作物の質を上げるため、いろいろな角度から提案できるようになった」と話し、副業によってプロデューサーという別の視点を持つことで、新しい知見を本業に環元できたと実感している。
 こういった意味では、副業は極めて実践的、現実的でシビアな社外研修と捉えることもできる。

(2)自社のサービスに対する"気づき"が得られる
 同社の社員の半数以上は、ユーザーとして自社のオンラインマッチングサービスに登録しており、自社のサービスを利用して副業を見つけることができる環境にある。実際に自社のサービスを利用して副業している社員はごく一部だが、"副業の自由化"によって、ユーザーとしての視線で自社のサービスへの注目度は高くなる。
「これはあくまで弊社特有のメリットですが、自分たちが提供しているサービスをユーザーとして実際に使うことで、新たなアイデアが生まれたり、改善点が見つかったりすることが多々あります。副業による自社のサービスの検証・改善として、こういう効果も期待しています」
 佐々木氏は同社特有のメリットだというが、社外で培った視点やスキルが社内のサービス改善や技術開発に役立つことは、他社においても大いにあり得る話だろう。

(3)定着率の向上や採用面にも好影響
「弊社の仕事に満足はしていても、『何か少し別のこともしてみたい』という気持ちがあって、でも弊社ではそれができないという場合に、それが転職のきっかけになることも十分に考えられます。副業を自由化することで、弊社で働きながら『少し別のこともしてみたい』という気持ちが満たされれば、転職にまでは至りません。副業自由化の採用面での成果を定量的に把握してはいませんが、中途採用のエントリーシートに『副業を認めている会社ということで応募しました』と記入する応募者も現にいますので、採用面でもプラスに働いていると思います」

4.より使い勝手の高いフレックスタイム制へ変更


 「ハタカク!」の3本目の柱は、従来午前10時始業、午後7時終業だったものを、午前10時から午後4時をコアタイムとするフレックスタイム制に変更したことである。コアタイムのないスーパーフレックスタイム制の導入なども検討したが、創業以来社員が顔をそろえて1日をスタートするという文化を大事にしてきたこともあり、その文化を極端に変えるよりは段階を追っていくべきだと考え、現在の形に落ち着いたという。

5.「ハタカク!」のさらなるバージョンアップを目指す


 以上の3本の柱からなる「ハタカク!」を推進することで、同社は多様な働き方を社員自らが実践できる職場の実現を目指している。「ハタカク!」を進めていく上でのキーワードは"生産性"と"信頼関係"である。
「リモートワークにしろ、副業の自由化やフレックスタイムにしろ、それを導入しても生産性が下がらないことが大前提なのはいうまでもありません。その大前提を下支えしているのは社員との信頼関係です。リモートワークであっても、副業であっても、社員がきちんと働いてくれるという信頼関係があればこそ成り立つ制度です」
 生産性と信頼関係をベースに、同社は今後もさらに「ハタカク!」のバージョンアップを図っていく方針である。副業をしている社員の中には、他社で働きながら副業として同社で働く(社会保険などが煩雑になることを防ぐため、同社の業務は業務委託としている)事例もあり、この"逆転の発想"とでもいうべきワークスタイルが増えることも予想している。また、現在週3日までとなっているリモートワークの日数を段階的に増やしていき、"フルリモートワーク"(すでに一部で導入済み)の導入・拡大も、今後検討していくとのことだ。