2018年07月03日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [137]『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』

(フレデリック・ラルー 著 鈴木立哉 訳 英治出版 2018年1月)

 

 本書は、「ティール組織」という新しい組織モデルを提唱した本です。著者は、組織の発展段階を色で表していて、現在、世界中で5段階目の新たな進化型モデルが生まれ始めているとし、これを「ティール(鴨の羽色)」という色(本書カバーの色)で表現しています。

 第Ⅰ部では、これまでの組織の歴史と進化を振り返っています。組織形態の第1段階は「衝動型(レッド)」モデルで、これはマフィアなど、恐怖が支配する組織であり、第2段階は「順応型(アンバー)」モデルで、教会や軍隊など、規則・規律による階層構造が支配する組織であるとしています。そして、現代の資本主義社会での主流が、第3段階の「達成型(オレンジ)」モデルであり、目標を設定して未来を予測し、効率を高め成果を上げようとする組織ですが、効率と成果を追求するあまり人間らしさが無視されやすいとしています。

 そこで生まれたのが第4段階の「多元型(グリーン)」モデルで、平等と多様性を重視し、多様なステークホルダーを巻き込み合意形成して物事を進める組織ですが、多様な意見をまとめきれないリスクもあるとしています。そして、これらの問題を打破すべく生まれつつあるのが、第5段階の「進化型(ティール)」モデルであり、トップダウン型でも合意形成による意思決定でもなく、上司も中間管理職もいなければ、組織図も職務権限規程も肩書きもない、生命型組織であるとしています。

 第Ⅱ部では、ティール組織はその特徴として、「自主経営(セルフ・マネジメント)」「全体性(ホールネス)」「存在目的」の三つの突破口を備えているとしています。つまり、環境の変化に対して、階層やコンセンサスに頼らず、適切なメンバーと連携した迅速な対応が可能で、誰もが「本来の自分」の姿で職場に来ることができ、同僚、組織、社会との一体感を持てるような風土や慣行があって、さらに、組織自体が何のために存在し、将来どの方向に向かうのかを常に追求し続ける姿勢が見られるとしています。その上で、そうしたティール組織が実際どのように運営されているのかを、著者らが調査した12の組織の事例を通して紹介しています。

 例えば、2006年に立ち上がったビュートゾルフという、在宅介護支援の新しいモデルを提供する組織では、マネジャーのいないチームという特異な組織形態により、7年間で10名から7000名の介護士が働く組織に急成長を遂げたとのことです。他社の事例も含め、上司のいないチームが、どのように意思決定を行っているのか、開放的で真の意味で安心できる職場環境をどう整えているのか、採用や研修、労働時間管理や評価など人事面でどのような慣行やプロセスを取っているのかなどを紹介しています。

 第Ⅲ部では、ティール組織が機能するための条件は何か、新たにティール組織を立ち上げる際と、既存の組織をティール組織へ転換させる際のそれぞれについて、念頭に置くべきことは何かを示唆しています。

 ティール組織とは、上司がマイクロマネジメントを行わなくても、組織の目的実現に向けて進むことができている、独自の工夫にあふれた組織であり、世界には既にそうした組織が増えてきていて、成果を上げているとのことです。この新しい組織モデル(パラダイム)が、今後ますます潮流的なものとなり得るのか、関心が持たれます。これからの社会に適合した組織とはどのようなものかを考える上で、示唆に富む本であると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年3月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー