2018年06月05日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [135]『上司が壊す職場』

(見波利幸 著 日経プレミアシリーズ 2018年1月)

 

 本書は、産業カウンセラーである著者が、自身のカウンセラーとしての経験則を基に、部下を不調に追いやる上司の特徴とその対処法を分かりやすく説いた本です。

 第1章では、職場におけるメンタル不調の7割は上司が原因で起き、その半分(全体の3分の1)は、マネジメント能力不足がその原因である一方、残りの半分は上司自身の特性、つまりキャラクターに偏りがあるケースであるとしています。本書では後者に注目して、このタイプを「危険な上司」と呼んでいます。

 著者は、こうした危険な上司は、他人に気を配れず、他罰的で自己中心な思考をする傾向にあり、無自覚にパワハラ問題を起こし続けるとしています。その上で、「危険な上司」を、周囲が目に入らず空気が読めない「機械型」、相手を"敵"と認識すると感情的に攻撃する「激情型」、常に賞賛を浴び特別視されたい「自己愛型」、部下の気持ちよりも自己の目的を重視しすぎる「謀略型」の四つのタイプに分類し、第2章から第5章の各章で、それぞれのタイプを解説するとともに、その対処法を示しています。

 「機械型」は、興味の幅が狭く、段取りが下手で、普段は部下の仕事に全く関心がないのに、どうでもよいことを細かく注意してくるタイプです。「激情型」は、部下の些細(ささい)な一言で突然逆上し、罵声を浴びせかける典型的なパワハラ上司で、感情の制御ができず相手を攻撃し、時にはパワハラの域を超えるケースもあるタイプです。著者は、このタイプの人を上司に就かせないよう、会社側は見きわめる必要があるとしています。

 「自己愛型」は、有能だと思われることが本人にとっての最大目標であり、「部下の手柄は自分の手柄」と考えるのに、自身のミスの責任は平気で部下へ押し付けるタイプです。「謀略型」は、支配欲や権利欲が強く、邪魔と感じた部下は躊躇なく切り捨てる「最も危ないタイプの上司」であり、手段を選ばず、自分のせいで部下がつらい目にあっていても良心が痛むことがないタイプです。著者は、このタイプが、部下側の対処が最も難しいとしています。

 第6章では、「危険な上司」の行動様式を、カウンセリングなどを通して変えようとするならば、どのようなカウンセリング内容になるか、四つのタイプごとに解説しています。また、「危険な上司」を生み続け、メンタル不調者を多く出す、いわば「危険な会社」というものも多く目につくとしています。

 そこで、最終章の第7章では、「危険な上司」を生まない会社になるための幾つかの提言をしています。この中で、問題を起こしたりした上司を、同じ職位のまま別の職場に「たらい回し」するのは、問題の先送りであるとしています。また、「会社員は管理職に登用されてこそ」という組織文化は考え直す時期に来ているともしています。

 本書では、カウンセリングの手法を示しつつも、カウンセラーの立場でできることには限界があり、「人事上の判断」でしか、真の解決はできないとしています。また、誰を管理職に登用するかの判断が重要になってくるとしています。パワハラ上司になる危険性というのは、現実に、管理職登用に際してあまりチェックされていないということもあると思われます。人事パーソンにとって、自らの気づきを促すために一読してみるのもよい本であると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2018年2月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー