2018年03月20日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [130]『なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか―すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる』

(ロバート・キーガン リサ・ラスコウ・レイヒー 著、中土井 僚 監修、池村千秋 訳 英治出版 2017年8月)

 

 本書は、長年「大人の発達と成長」を研究してきた著者らによる本であり、すべての人が自己変革に取り組むことで、人々の発達を組織全体で可能にし、同時に業績を上げることも可能であることを、3社の事例を基に論じています。

 著者らは、ほとんどのビジネスパーソンが、「自分の弱さを隠す仕事」に多大な労力を費やしているとし、そのことは、そうした"もう一つの仕事"など誰もしていない組織を観察して初めて分かるとしています。本書で紹介される3社は、人々の能力を育むのに最適の環境を持ち、みんなが自分の弱さをさらけ出すことができ、安全であると同時に要求の厳しい組織文化である――などの特徴があるとして、このような組織を「発達指向型組織」(DDO=Deliberately Developmental Organization)と呼んでいます。

 第1章では、DDOとはどのようなものなのか、DDOに移行しようしている組織の現場を3社の事例を通して紹介し、それらには、失敗が成功を加速する、「自分の成長+他者の成長=みんなの成長」となっている、リーダーがすぐに次のリーダーを育てる、人々の能力を開花させる場をつくっている――などの特徴があるとしています。

 第2章では、DDOでは、組織を大きくすることより、組織を良くすることをまず考えるとしています。その上で、大人の知性には「環境順応型知性」「自己主導型知性」「自己変容型知性」の三つの段階があり、すべての人が知性のレベルを次の次元に向上させる必要があるとしています。

 第3章では、DDOという概念を「ホーム」(発達を後押しするコミュニティ)、「グルーブ」(発達を実現するための慣行)、「エッジ」(発達への強い欲求)の三つのカテゴリーに分け、DDOに共通する12の特徴を挙げています。

 第4章では、「グルーブ」の側面から、DDOの人々が具体的にどのようにして自分の限界に挑み続け、自らの弱点をあぶり出し、行き詰まりの原因を掘り下げ、自分の足を引っ張ってきた思考・行動パターンを克服するようにしているかを、3社の事例から探っています。

 第5章では、DDOの考え方で果たして営利企業が運営できるのかという疑問に対し、先の3社の例を分析し、それらは、個人の成長を重んじているからこそ営利面でも成功しているのだとしています。

 第6章では、「エッジ」の側面から、DDOでどのように成長が後押しされるのかを示し、第7章では、「ホーム」の側面から、DDOを目指す組織がその一歩を踏み出すための方法論を説いています。

 著者らの前著『なぜ人と組織は変われないのか』(2013年/英治出版)は、個人と組織が成功するための変革のプロセスを心理学的な観点から浮き彫りにした本でしたが、本書も、組織と個人の両方の潜在能力を開花させる方法を示した本です。企業にとって個人の発達は「付け足し」ではなく、発達指向の考え方があってこそ、組織の成長が望めるとの考えに立っています。

 「発達」という考えを、社員のキャリアの発達ではなく、社員の人間としての発達として捉えているところに、先駆的かつ啓発的なものを感じました。『なぜ人と組織は変われないのか』と併せて読むとよいと思います。

<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2017年11月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒) 
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長 
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格 
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに) 
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント 
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」 
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント 
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格 
    
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員 
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員 
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー